子どものこころの発達研究センターの三邉義雄センター長(医薬保健研究域医学系教授),菊知充 教授,大学院医薬保健学総合研究科博士課程の竹崎奈津美さんらの研究グループは,モントリオール大学との共同研究プロジェクトで,国内唯一の「幼児用脳磁計(Magnetoencephalography:MEG)」(図1)を活用した自閉スペクトラム症児の脳機能研究を推進し,自閉スペクトラム症児においては,視覚野に相当する後頭部と前頭部の間で,ガンマ帯域を介した脳機能結合(図2)が強いと,視覚性課題の遂行力が高いことを発見しました。
自閉スペクトラム症者のなかには,視覚性の問題を解く能力が優れた人がいます。これまでの自閉スペクトラム症成人の研究からは,特に視覚野と他の部位の脳機能結合が高いことが重要であると考えられてきました。しかし,幼児においては,脳の研究が困難であることから,十分には検討されてきませんでした。
今回,4 歳から10 歳の健常児18名と自閉スペクトラム症児18名を対象に,幼児用MEGを用いて脳の神経活動を記録した結果,自閉スペクトラム症児においては,視覚野(後頭部)から他の部位への機能的結合が強いほど,視覚性の課題(視空間課題および視覚性類推課題)の遂行能力が高いこと(※)が世界で初めて示されました。これは,これまで調べることが困難であった自閉スペクトラム症児期の脳内ネットワーク発達の特徴を,幼児用MEGにより,幼児でも優しい検査方法で調べる事ができたためです。今回の成果は,子どもの脳の個性を「見える化」する,一つのステップになると期待されます。
本研究成果は,米国の科学雑誌The journal PLOS ONE オンライン版に日本時間9月16日AM3時に掲載されました。
※ 視覚性課題の遂行力が高いこと:例えば,三次元の物体イメージを,心の中でうまく回転させることができること
※脳機能結合:神経活動の関連性の高さによって示される脳内のつながりの強さ