本学子どものこころの発達研究センター東田陽博特任教授,棟居俊夫特任教授らの研究チームは,知的障害を有する自閉スペクトラム症(※1)の一群(サブクラス)の成人男子に8週間のオキシトシン(※2)連続投与を行い,この研究結果が,スイス科学雑誌“Frontiers in Psychiatry”に掲載されました。これは,自閉スペクトラム症の中で半数を占める知的障害を伴う人達を対象とする臨床研究としては世界で初めての報告です。
今回の臨床研究では,オキシトシンの連続投与を行ったグループと偽薬を投与されたグループそれぞれの,症状の変化や様子が調べられました。その結果,オキシトシンの連続投与は,自閉症を評価する一般的な尺度では効果がありませんでしたが,より実生活に密接した対人交流の頻度のような別の尺度で見ると効果があり,また,偽薬の効果が著しくあったことも結論付けられました。
なお,本研究は平成27年度に文部科学省から国立研究開発法人日本医療研究開発機構に移管された「脳科学研究戦略推進プログラム(脳プロ)」(※3)発達障害研究の「精神・神経疾患の克服を目指す脳科学研究(課題F)の助成を受け行った研究です。
※1 自閉スペクトラム症
対人関係やコミュニケーションの発達障害が主な症状の病気。かつて自閉症,アスペルガー症候群,特定不能の広汎性発達障害などと言っていたものをまとめて,自閉スペクトラム症と言うようになった。有病率は1%前後という高さである。知的障害を伴うことが多く,てんかんも併発する病気。治療薬は未だ見つかっていない。
※2 オキシトシン
出産時の子宮収縮作用,授乳時の乳汁分泌促進作用をもつ9個のアミノ酸から成るホルモン。最近の研究では,他者との信頼関係の強化や親子の絆を強める働きがあることが分かってきている。
※3 脳科学研究戦略推進プログラム(脳プロ)
文部科学省が平成20年度より開始したプログラムで,現在は国立研究開発法人日本医療研究開発機構が少子高齢化を迎える我が国の持続的な発展に向けて,科学的・社会的意義の高い脳科学研究を戦略的に推進しており,その成果を社会に還元することを目的としている。