新学術創成研究機構の佐藤純教授らの研究グループ(革新的統合バイオ研究コア 数理神経科学ユニット)は,脳の解析モデルとして注目されているショウジョウバエに着目し,哺乳類と類似した神経回路形成機構がショウジョウバエの脳においても存在することを見出し,さらに分泌性因子Slit(※1)およびその受容体であるRobo2/Robo3(※2)の働きが由来の異なる神経細胞間の相互作用を制御していることを発見しました。
これらの因子は哺乳類においても存在することから,同じメカニズムがヒトを含めた哺乳類の脳においても働いていると考えられます。脳の高度な機能を実現するためには,産まれた場所が異なる神経細胞の組み合わせによる神経回路の形成が重要であると以前より考えられてきましたが,哺乳類において,これら神経細胞の相互作用メカニズムは未だ明らかにされていません。本研究の成果が自閉症をはじめとした神経疾患のメカニズム解明に役立つことが大いに期待されます。
本研究成果は,平成28年4月7日午後12時(米国東部標準時間)発行の米国科学誌「Cell Reports」のオンライン版に掲載されました。
【本研究成果で明らかにしたこと】
1.ショウジョウバエ脳の視覚中枢において一部の神経細胞がGPCと呼ばれる領域から産生されたのち,細胞移動によってOPCに供給され,視覚中枢を構成する。
2.GPC由来神経細胞はOPC由来神経細胞とIPCの間の領域を移動する。このときGPC由来細胞は反発性リガンドSlitを発現し,Robo3を発現するOPC由来細胞およびRobo2を発現するIPCの細胞に対して反発性の作用を示す。
3.SlitおよびRobo2/3の機能が阻害されると,これら神経細胞間の位置関係に異常が生じ,神経細胞の配列が乱れる。
[模式図]
【用語解説】
※1 Slit
分泌性タンパク質で,Robo受容体と結合することにより反発性の作用をもたらす。
※2 Robo
Slitの受容体で,Slitと結合することにより反発性の作用をもたらす。ショウジョウバエにはRobo1, Robo2, Robo3の3種類が存在し,本研究ではRobo2およびRobo3の働きを解析した。
※3 OPC
ショウジョウバエ脳の視覚中枢の大部分を構成する領域
※4 GPC
ショウジョウバエ脳の視覚中枢に隣接する領域
※5 IPC
ショウジョウバエ脳の視覚中枢の一部を構成する領域