体内時計が刻む1日の長さを決める細胞を発見!

掲載日:2016-9-13
研究

医薬保健研究域医学系の三枝理博准教授および櫻井武前教授(現・筑波大学教授)と,理化学研究所の研究グループは,脳内物質「バソプレシン」を産生する神経細胞が体内時計の周期(1日の長さ)を決めることを明らかにしました。

私たちのほぼ全ての身体機能は体内時計により調節されます。今回の発見は,睡眠障害,精神疾患やメタボリックシンドロームなど,生活リズムの乱れに関連するさまざまな疾患・健康障害の治療・改善に応用できると期待されます。

この研究成果は米国の科学雑誌「Current Biology」のオンライン版に8月25日12時(米国東部標準時間)に掲載されました。本成果の一部は,文部科学省・日本学術振興会の科学研究費補助金の支援を受けて行われました。

視交叉上核は約2万個の神経細胞でできています。この神経細胞群は均一な集団ではなく,性質の異なる複数のタイプの神経細胞から成り立っています(図1)。多くの神経細胞がネットワークを形成して互いにコミュニケーションを取り合い,視交叉上核全体として時刻情報を全身に送ります。これまでにも,視交叉上核の一部の神経細胞が体内時計の周期(1日の長さ)を決めているとの報告がありますが,報告された神経細胞群は未だ多くの種類の神経細胞を含んでおり,具体的にどのタイプの神経細胞が体内時計の周期を決めるのか,明らかになっていませんでした。

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図2 

今回,視交叉上核内に存在する神経細胞のうち, 「バソプレシン」という物質を産生する神経細胞が体内時計の周期を決めることを,世界で初めて突き止めました。バソプレシン産生神経細胞が生み出すリズムの周期を遺伝子操作により長くすると,体内時計により制御されるマウスの行動リズムの周期も約1時間長くなりました。逆にバソプレシン産生神経細胞のリズムの周期を短くすると,行動リズムの周期も約30分短くなりました(図2)。

 体内時計の周期が24時間から大きく外れると,外界の昼夜サイクル(24時間周期)に合わせることが難しくなります。実際,俗に言う宵っ張りの朝寝坊(夜型傾向)は体内時計の周期が長いことが一因と考えられています。一方,時差ボケでは体内時計の時刻が外界の時刻とずれています(位相がずれている)。歳をとると眠りが浅くなるのは,体内時計の刻みが弱い(振幅が小さい)ためと考えられています。周期,位相,振幅,それぞれがどのように制御されているのか,体内時計のメカニズムを正確に理解することで,体内時計の乱れに起因するさまざまな健康障害・疾患に対し,最も適切な改善・治療法を見出すことができるようになると期待されます。

 

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Current Biology

研究者情報:三枝理博

 

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