学際科学実験センターの西山智明助教が参加する国際研究グループは,オーストラリア原産の食虫植物フクロユキノシタ(図1)の約20億塩基対(※1)の核ゲノム(全遺伝子情報)の概要塩基配列の解読に成功しました。
通常の植物は栄養分を根から吸収しますが,食虫植物は捕虫葉で小動物を誘引・捕獲・消化・吸収しています(図2)。ダーウィンに端を発する現代の進化仮説では,生物は突然変異によって生じた変異が,自然選択によって集団内に残ることによって進化するとされていますが,食虫植物のように,小動物の誘引・捕獲・消化・吸収といったいくつかの進化が重なることによって初めて適応的となる進化の仕組みは謎に包まれていました。研究チームは,どのような遺伝子がどのように変化することによって食虫性が進化したかを解明するため,食虫植物フクロユキノシタのゲノム解読を開始。概要塩基配列の解読に成功しました。さらに,フクロユキノシタの平面葉と捕虫葉を,培養温度の違いによって作り分けさせることに成功し,平面葉だけを作る温度で育てたフクロユキノシタと,捕虫葉だけを作る温度で育てたフクロユキノシタを比較することで,食虫性の進化の鍵となる誘引・捕獲・消化・吸収に関わる遺伝子候補が見つかりました。
今後は,食虫性に関わったと推定される遺伝子の捕虫葉での機能解析を行うことで,食虫性がどのようにして進化したのかを明らかにできると考えています。
本研究は基礎生物学研究所/総合研究大学院大学の福島健児大学院生(現日本学術振興会海外特別研究員,コロラド大学在籍)と長谷部光泰教授,大阪教育大学の鵜澤武俊准教授,金沢大学の西山智明助教,首都大学東京,東京大学,東海大学の星良和教授,東北大学,名古屋大学,北海道大学の藤田知道教授,宮城大学,中国の北京ゲノム研究所,香港市大学,米国のコロラド大学,バッファロー大学,ネバダ大学,ベルギーのゲント大学,スペインのバルセロナ大学,デンマークのコペンハーゲン大学,カナダのオタワ大学の国際共同研究チームによる成果です。
本研究成果は英国時間2017年2月6日(日本時間7日)に国際的生態学・進化学専門誌Nature Ecology and Evolution(ネイチャー・エコロジー アンド エボリューション)に掲載されました。なお,本研究は文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「複合適応形質進化の遺伝子基盤解明(代表:長谷部光泰)」などの支援のもと行われました。
図2 普通の植物(非食虫植物)と食虫植物の栄養分の取り方の違い
※1 「塩基対」 DNAの構造単位。ヒトゲノムは約30億塩基対である。