医薬保健研究域医学系の服部剛志准教授と堀修教授らの研究グループは,高次脳機能の中枢と考えられている大脳皮質の発達の新たな仕組みを明らかにしました。
脳の中には,神経細胞と共に脳を構成するグリア細胞(※)が存在し,その数は脳の細胞の50%以上を占めると言われています。これまでの脳発達障害の研究は,主に神経細胞に焦点が当てられてきましたが,最近になって,グリア細胞の異常についても報告されるようになってきました。しかしながら,生後脳におけるグリア細胞の発達の仕組み,さらにその異常と発達障害との関わりについては,いまだに不明な点が多く存在します。
研究グループは,脳の発達障害とグリア細胞の関係を解析するために,行動異常を示す種々の発達障害モデルマウスを用いて,グリア細胞の発達異常を解析したところ,グリア細胞の発達のために重要な遺伝子がCD38であることを世界で初めて発見し,また,CD38遺伝子の異常によりアストロサイトとオリゴデンドロサイトというグリア細胞に発達の遅れが起こることを見いだしました(図1,2)。本研究を発展させることにより,自閉症をはじめとした脳の発達障害の原因究明,診断・治療法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は,2017年3月11日(日本時間)発行の米国のグリア細胞研究専門誌『GLIA』オンライン版に掲載されました。なお,本研究の一部は,文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。
図1.CD38遺伝子が欠損するとアストロサイトに異常が起こる
左)正常なマウスのアストロサイト。
右)CD38遺伝子のないマウスのアストロサイト。細胞から伸びる突起が細く,数が少ない(白い矢頭)。
図2.CD38遺伝子が欠損するとオリゴデンドロサイトに異常が起こる
左)正常マウスにおけるオリゴデンドロサイトが作るタンパク質(MBP)の染色像。
右)CD38遺伝子がないマウスにおいてはオリゴデンドロサイトが少ないため,MBPの量も少ない(白い矢頭)。
【用語解説】
※ グリア細胞:
神経細胞のネットワーク形成,情報伝達を調整し,また,神経細胞の生存にも役立っていると考えられている細胞。