医薬保健研究域医学系循環器病態内科学の山岸正和教授,川尻剛照准教授,吉田昌平助教,附属病院循環器内科の中西千明助教らの研究グループは,医薬保健研究域医学系小児科学の谷内江昭宏教授および太田邦雄准教授らとの共同研究で,心臓病変の程度の異なるダノン病の双生児から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作製しました。さらに,樹立したiPS細胞から誘導した心筋細胞を用いることで,臨床上の心病変の有無にかかわらず,ダノン病特異的な病態を呈する心筋細胞と正常な心筋細胞のそれぞれを作製できることを明らかにし,その原因がX染色体の不活性化にあることを突き止めました。
ダノン病は,肥大型心筋症,筋力低下,知能障害を3徴とする,LAMP-2(※)の変異を原因とする指定難病で,これまで治療法について明らかにされていませんでした。研究グループは,1名のみダノン病を発症している双生児それぞれの血液からiPS細胞を作製。さらに,そのiPS細胞から心筋細胞を誘導したところ,ダノン病発症の有無にかかわらず,ダノン病に特徴的な異常を持つ細胞と,正常な細胞の両方の作製に成功しました。
これらの異常な細胞と正常な細胞の双方の分析によって,ダノン病発症のメカニズム解明が期待できます。また,本研究は,遺伝子異常による疾患を持つ女性に対して,適切なX染色体の不活性化を誘導する治療の可能性,さらに自己のiPS細胞を用いた治療についても可能性を見いだすものです。
本研究成果は,国際心臓研究学会機関誌『Journal of Molecular and Cellular Cardiology』のオンライン版に日本時間の平成29年11月28日に掲載されました。
図1 iPS細胞から誘導された心筋細胞
ダノン病の発症患者の症例(A)と未発症患者の症例(B)。どちらの症例のiPS細胞からも,正常なLAMP-2を持つ細胞と,異常なLAMP-2を持つ細胞のいずれも誘導することができました。
図2 ダノン病患者のiPS細胞から誘導された心筋細胞を電子顕微鏡で見た様子
正常な心筋細胞(左)とダノン病特異的な症例である自己貪食空胞が見られる心筋細胞(右)。
【用語解説】
※ LAMP-2
細胞小器官の1つであるリソソームを構成するタンパク質の一種であり,ダノン病の原因遺伝子として知られています。
・ Journal of Molecular and Cellular Cardiology