第7回超然文学賞 結果発表・講評

受賞者が決定しました!おめでとうございます!

令和6(2024)年7月1日(月)から8月20日(火)の期間に募集しました「第7回超然文学賞」に御応募いただき,ありがとうございました。各部門の応募作品の中から,審査員による厳正な審査の結果,下記のとおり受賞者を決定しましたので,お知らせします。

 

小説部門

  氏名  作品名  所属学校・学年
最優秀賞 谷 和佳乃 スカートの行方 智辯学園和歌山高等学校      3年
優秀賞 デルガード 直輝 アルフレド タコと玉手箱 愛知県立熱田高等学校       3年
優秀賞 中神 穂香 夏時雨とゲオスミン 愛知県立時習館高等学校      3年
佳作 吉住 恒思 ファン・レター 東京大学教育学部附属中等教育学校 6年
佳作 朝日 ひまり 沈丁花が枯れるとき 石川県金沢錦丘高等学校      1年
佳作 橋場 達彦 千円札破りたい 愛知県立時習館高等学校      2年

短歌部門

  氏名  作品名  所属学校・学年
最優秀賞 川上 真央 私の輪郭 東京学芸大学附属高等学校     3年
優秀賞 市嶋 真ノ介 生き物の国 石川県立金沢錦丘高等学校     2年
優秀賞 山田 ひなの 贖罪の雨 愛知県立時習館高等学校      2年
佳作 昆野 永遠 対になって 宮城県気仙沼高等学校       3年
佳作 佐藤 みちる 水と棲む 宮城県気仙沼高等学校       2年
佳作 森岡 千尋 ちいさな春 神奈川県立光陵高等学校      1年
 
※優秀賞および佳作の記載順は学校が所在する都道府県コード番号順

講評

総評:世代と世界を超えて読まれるということ

金沢大学国際基幹教育院GS教育系教授 佐藤文彦

 今年度から超然文学賞の学内体制が少し変わり、これまで審査委員長だった杉山先生が実行委員長に、副委員長だった佐藤が審査委員長になりました。

 第7回超然文学賞は、以上のように受賞作が決まりました。応募総数は小説部門30作、短歌部門22作でしたので、前年度(小説部門30作、短歌部門20作)とほぼ変わりません。今回も審査委員はすべての作品に目を通し―その際はもちろん、応募者の氏名・学校名・学年など、タイトルと作品そのもの以外の情報はすべて伏せられます―、審査に臨みました。結果的に小説部門も短歌部門も、最優秀から佳作まで全席が埋まりましたが、そのプロセスにおいては、白熱した議論が交わされました。そのすべてを明かすことはできませんが、私に与えられたお題は「総評」ですので、審査委員会の模様を振り返りつつ、受賞作だけでなく全体を通して言えることについて記したいと思います。

 まずは小説部門から。

 これは今年に限ったことではありませんが、超然文学賞の審査に携わるようになってよく思うことのひとつに、高校のクラスに馴染めなかったり、日々の生活に虚無を抱える「私」「わたし」「僕」「俺」、つまり一人称の主人公が、何らかの事件をきっかけに生まれ変わろうとする、そういった傾向を持つ作品があまりに多いということがあります。

 自分を取り巻く社会に違和感を覚える人間が小説の主人公になるのは、決しておかしなことではありません。むしろ小説の世界ではそれが普通でしょう。ただ、そんな主人公がみなさんと同世代であるとき、そしてそういった小説をみなさんとは違う世代の人間に(も)読ませるとき、何らかの工夫と言いますか、共感を呼ぶための冷めた視点が必要であることはたしかです。

 私含め、審査委員の多くはみなさんの親世代です。もっと言うと、私含め高校生の子を持つ審査委員は複数います。おそらくみなさんは応募作を書き上げたのち、推敲を重ねる過程で、誰かに読んでもらったことと思います。さすがに親には見せにくいかもしれませんが、あなたがこの作品に込めた思いは、自分とは違う世代の読者にも伝わるものかどうか、どうすればより伝わるのか、少し考えてみてください。

 とくに今年の審査委員会で出た意見として、登場人物を簡単に死なせすぎじゃないか、というのがありました。人間にとって死は普遍的なテーマです。だからあなたが自作で扱いたい気持ちはよくわかります。が、だからこそ、丁寧に扱ってほしいのです。

 今回の最優秀賞受賞作「スカートの行方」は、死よりも生を見つめた作品です。そのまなざしがたいへんに真摯なため、死を裏側から描いたものと言っていいかもしれません。優秀賞受賞作のひとつ「夏時雨とゲオスミン」も、登場人物を簡単には死なせません。いなくなった者よりも、残された者たちの未来に重きが置かれている点で際立っています。もうひとつの優秀賞受賞作「タコと玉手箱」は、骨太な生命力にあふれた異色作です。作者は昨年も意欲作「裕子のレッスン」で応募し、佳作に選ばれました。今回の作品はぜひとも『受賞作品集』に載せたいという声が強く、優秀賞に選ばれました。

 続いて短歌部門について。

 正直に告白しますと、私を含めた審査委員の多くは、普段から小説に親しむことはあっても、短歌にそれほど詳しくありません。だから小説部門に比べ、評価が分かれがちです。学外審査員の黒瀬先生とわれわれ教員の評価が大きく異なることも(小説部門に比べ)ままあります。そこでどう調整が図られているのかについて語る前に、少し寄り道になりますが、審査委員は応募作品をいつ・どこで読んでいるのかについてお話しします。

 毎年8月20日前後に応募が締め切られたのち、私たちは8月下旬から9月中旬にかけて作品を読みます。その期間、大学は夏休みなので、研究室で読むよりむしろ、学外で読む審査委員が多いはずです。ちなみに私は例年、ドイツで読んでいます。出張先の宿舎やコインランドリー、公園やカフェなど、いろいろな場所で読みますが、まずはみなさんの作品は日本の日常から大きく離れた世界に連れ出され、そこで読まれているということを理解ください。

 だから高校生活の日常を歌ったものは響かない、淘汰されると言いたいわけではありません。遠い世界に連れ出されてもなお、そう簡単にはふらつかない、自分の世界を持っている作品が残るということを言いたいのです。最優秀賞受賞作「私の輪郭」からは、演劇と手話と音の世界、つまり本来、書き言葉とは相容れない世界を、短歌という書き言葉によって捉えようとする意欲を感じました。優秀賞受賞作「贖罪の雨」は、他の多くの応募作同様、高校生活を歌いながらも他者と群れない、孤独を引き受ける覚悟の強さが抜きん出ていました。もうひとつの優秀賞受賞作「生き物の国」は、おもに教員から高く評価されましたが、「生き物」の選択が多種多様なところに個性が発揮されていました。

 世代を超えて、世界を超えても読まれる作品を。なんてないものねだりもいいところですが、私の初めての「総評」で言いたいことは以上です。

 最後に近い将来、超然文学賞を受賞したみなさんと本学でお会いできることを願って、少し授業の宣伝をさせてください。

 数年前から共通教育科目に「文芸創作実践」という授業を設けていることは、すでに過去の総評で杉山先生がお書きになっている通りです。加えて令和5年度から、人間社会学域の専門科目(学域共通科目)「文学概論」という授業で、超然文学賞受賞作を読むということをやっています。100名の受講生には、指定された作品を事前に読んできてもらい、授業は作者の自作解説のほか、授業担当者(佐藤)との対談や学生からの質疑応答で進められます。昨年度初めてやってみたところ、多くの学生が、作者は教員(佐藤)の解釈よりもっと深い考えに基づいて言葉を選んでいる事実に驚いていました。数年後、今回の受賞者のみなさんにも、私の授業で自作について語ってもらえるのをいまから楽しみにしています。

 

小説部門 講評  審査委員:小説家 里見蘭

※後日公開します。

短歌部門 講評  審査委員:歌人 黒瀬珂瀾

※後日公開します。

表彰式

日時:令和6(2024)年10月19日(土)14:00~15:30

会場:金沢市内

「超然特別入試」超然文学選抜

令和7年度入試出願期間:令和6(2024)年11月1日(金)~8日(金)

入学者選抜要項・募集要項等詳細はこちら

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