レーゲンスブルク大学
2023年度 ヨーロッパ〈ドイツ〉
M. S.(人間社会学域 人文学類 3年)
2023年9月から2024年8月までの約1年間、ドイツのレーゲンスブルク大学に留学していました。私の専攻は比較文学で、留学の目的は語学(ドイツ語)の習得でした。留学先をレーゲンスブルクに選んだ理由に関しては、2年生の夏に同大学が開催したドイツ語のオンラインサマーコースへの参加経験が大きいといえます。
留学前の準備としては、やはりビザや住民登録などの手続きについて調べておくことが最も重要なことのひとつであると考えます。ネットなどで調べるとビザなどについて解説している個人のサイトが数多く見つかりますが、状況は常に変化するため大使館などの公式のサイトを参考にするのが適切でしょう。実際、私が渡航したときも、私より半年前に渡航した先輩とは必要な手続きが少し違いました。現地での滞在許可の取得には時間がかかり、私が外国人局に行って滞在許可証を取得できたのは渡航から3か月と1週間後でした。ある日突然国際オフィスからメールが来て、その日の授業を休んで外国人局に行くことになったのを覚えています。現在、ドイツではビザの予約を取るのがとても難しいらしく、一度のアポイントを逃すと長く待つことになってしまいます。渡航から2~3か月後は常に大学からのメールに注意し、すぐに外国人局へ向かえるように予定を空けておいたほうがよいでしょう。
私が金沢大学派遣留学プログラムに参加した目的は先に述べたように語学力の向上のためですが、実際に得たものはそれ以上であったと感じます。何より、1年間でも異文化の中に身を置いてみるという経験は精神的に大きく成長するきっかけとなりました。しかし言うまでもなく、大変なことも沢山ありました。渡航直後から最初の3か月~4か月はまだ現地での生活に慣れることができず、人と関わるのも避けていました。現地の言語もその当時はほとんど理解できず、英語も思った以上に通じなかったため当時は寮のルームメイトと顔を合わせることすら苦痛でした。授業に出ても周りの学生のほうが自分より優れているように感じたり、日本語を学習している現地学生たちとのトラブルを経験したりと、何度か「留学しなければよかった」と思うこともありました。
そのような状況下で、留学生活を最終的に「楽しかった」と言えるものにできたきっかけは、旅行とルームメイトの存在でした。一人で旅行に行くと、どうしても英語またはドイツ語を話さなければならない場面に遭遇します。これにより、「話す→通じる」という流れを経験できたことが私の語学上達に大きく貢献したといえます。さらに、様々な場所へ旅行する中で何度もトラブルに遭遇し、そのたびに現地の人々に助けられました。人助けの善意はどこの国にもどの民族にもあると知ることができ、段々と不安が和らいでいったのを覚えています。また、ルームメイトたちには今でも深く感謝しています。私の住んでいたフラットには私のほかに六人の学生がおり、台所などで顔を合わせるたびに話しかけてくれる学生も何人かいました。それにより、私の中で「コミュニケーションで大切なものは高い語学力ではなく伝えようとする意志である」という事実が根付き、段々とコミュニケーションへの抵抗が薄れていきました。私が帰国する際にはパーティーも企画してくれて、普段ほとんど話したことがなかったルームメイトまで参加してくれてとても楽しかったです。
留学によって希望する進路も少し変化しました。留学前まで私は出版業界などに興味をもっていましたが、現在はやはり語学を生かせそうな職につきたいと考え、そのような企業を中心に説明会などに参加しています。異文化との交流を通して、もともと好きだった語学という分野への関心がさらに高まり、さらに極めたいと思うことができたのも成長だったと思います。
現在留学を考えている学生の皆さんの中には、新しい環境への漠然とした恐怖や自分の語学力に対する自信のなさなど、不安なことを抱えている方が多いと思います。私から言えるのは、何でも好きなことをするのが最善ではあるが、出会いは大切にすべきだということです。渡航直後、あまりに毎日が苦痛で家に電話をかけたとき、私の父は「どうしても嫌なら授業に出なくてもいいから月に一度旅行に行きなさい」と言いました。授業を休むことはありませんでしたが、その言葉によって私はドイツ国内や他の近隣の国など、様々な場所への一人旅を始めました。それが語学の練習にもなり、上達にもつながったと感じています。私の留学は家族の精神的、経済的協力と現地と日本の友達の助けによって成し遂げられたものであり、かれらには感謝してもしきれません。沢山の人と交流しても、大学で現地のイベントに参加しても、一人で旅行に行っても、そこでしか得られない経験は必ずあり、どこでも助けてくれる相手は必ずいます。言うまでもなく警戒したほうがいい場所や人はいますが、どこの国にも、助け合おうという善意や人の思いやりは存在します。名前も知らない、話す言語も違う、そこでしか会わないような相手からの善意を受け取り、感謝できる気持ちがあれば、ほとんどのことは乗り越えていけると思います。