平成26年4月7日 いしかわ総合スポーツセンター
この度,晴れて金沢大学に入学した新入生の皆さん,おめでとうございます。金沢大学の教職員を代表してお祝いを申し上げますと共に,皆さんを心から歓迎いたします。また,この日を心待ちになさっていたご家族の皆さまにも,心よりお祝いを申し上げます。
ただ今,学域入学生1,847名(1年生1,776名, 編入生71名),大学院入学生776名,別科入学生27名の入学許可を宣言いたしました。この内,留学生は74名となっています。総勢2,650名の皆さん,皆さんは今日から金沢大学の学生です。おめでとうございます。これからの大学生活では,勉学に勤しんでいただくことはもちろん,多くの素晴らしい先生方,職員,そして先輩,友人と出会い,人間として,未来の研究者として,そして専門職業人として大きな成長を遂げてくれることを願っております。
皆さんの「母校」となる金沢大学は1862(文久2)年に設立された加賀藩彦三種痘所を源流とし,1874(明治7)年設置の石川師範学校,1887(明治20)年設置の第四高等中学校,1920(大正9)年設置の金沢高等工業学校を礎として,1949(昭和24)年に新制金沢大学としてスタートしました。そして今日では,3学域・16学類,5研究科を擁する,歴史と伝統を誇る総合大学にまで発展しました。
一昨年,2012年には淵源となる加賀藩彦三種痘所から数えて150年目の年を迎え,創基150年と位置づけて〈先魁 共存 創造〉のコンセプトの下,各種の行事を通して祝典を行い,次の150年に向けて新たな第一歩を踏み出しました。入学された皆さんも,これからしっかりと学び,将来,金沢大学の新たな歴史を刻む活躍をしてくれるものと大いに期待しています。
私たちを取り巻く周囲の状況の厳しさは,皆さんも十分に承知のことと思います。東日本大震災からの復旧・復興には,なお幾多の年月を要するでしょう。また,わが国の経済の見通し,ものづくり大国であった日本の国際的地位の低下,少子高齢化問題をはじめ山積する課題があります。そして世界に目を向ければ,資源・エネルギーの確保,人口と食糧問題,地球温暖化と気候変動などの地球規模の多くの課題に直面しています。これらの諸課題の解決には,人類の英知を結集し,息の長い着実な取り組みが必要であります。
立ち向かわねばならない課題が多くあればあるほど,困難であればあるほど,「大学で学ぶ」ことの意義は大きく,重要となってくるはずです。若い皆さんに対する社会の期待も,当然大きなものがあります。
そこで皆さんに問いかけたいのです。皆さんは何に憧れ,何を期待して金沢大学に入学したのでしょうか?
学士課程にあっては4年間あるいは6年間,大学で学ぶ目的は何なのでしょうか?
選んだ専門分野の知識とスキルを体系的に身に付ける,免許・資格の取得に向けて頑張る!
それは当然ですが,それだけなのでしょうか?
大学院課程にあっても,その目的は何なのでしょうか?さらに高度な知識を修得し,研究に従事する経験を経て学位を取得することはもちろんでしょうが,それだけなのでしょうか?純粋に皆さん自身に問いかけてみてください。
自ら学ぶ目的,目標が定まり,それらの目的を達成するために「大学で学ぶ」という結論に到達したとき,皆さんに最も期待したいのは,何よりも大学に在学する間,死に物狂いで学んでほしいということです。単に知的好奇心を満たすだけにとどまらず,物事の全容とそこに内在する課題を解決に導くことができるような,鋭い洞察力と卓越した予測の力を身に付けていただきたい。社会に出て活躍するには,まだまだたくさんの知らないことがあることを自覚し,学ぶことに対するハングリーさ,飢餓感をもって,貪欲なまでに学び,己を高めていただきたいと思います。「大学で学ぶ」ということは,教科書や本で,教室や実験室で学ぶことだけを意味するのではありません。それらと同じくらい,あるいはそれ以上に,社会で,インターンシップで,海外留学で培った経験は,皆さんが大学で得る一生の財産となるでしょう。
最終的には,自らよく考え,能動的に学ぶ姿勢,態度を身に付けることが,人生の成功へと皆さんを導いてくれることを確信しています。
「何のために大学で学ぶのか?」
その問いへの私の答えは,「己を磨く!」です。すなわち「人間としての己を磨き,専門人としての己を磨く,そしてグローバル人材としての己を磨く!」に尽きます。具体的な目的はどうあれ,これらこそが,皆さんの目的の根底に据えるべきものではないでしょうか。そのためには,皆さん個々が,何をどう考え,どんな学びの計画を立て,どう大学生活を過ごせば良いのかを自ら模索することが大切なのです。大学での学びは今までの高校での授業とは違い,自分で学びたいものを自由に選択し,自己形成に励まなければなりません。同時に,その結果に自分で責任を持たねばならないのです。是非とも,自問自答を繰り返し,悩んでください。自ずととるべく道,選択すべき方向性が見えてくるはずです。それを考えるためのヒントをもう少しお話ししましょう。
第一に,「人間としての己を磨く!」
皆さんには,人文科学,社会科学,そして自然科学の基礎知識・常識を積極的に学び,教養を深め,高い倫理観と,新しいアイディアを創造する力やそれを具体化するなどの,いわゆる人間基礎力を磨いていただきたい。批判的思考力と歴史・文化に対する自分自身の価値観,世界観を持つことが大切です。そしていろいろな人々と交わり友人を作り,生涯の友を見つけてください。出会いと別れ,恋愛を経験して優しさと厳しさを合わせ持ち,他人の悲しみが理解できる深みのある人間として成長していただきたい。また,他の人とは違う自分を見つけ,磨いていただきたい。それがやがては皆さん自身の個性,強みとなるはずです。時には型破りでもいい。他の人や世間とは異なった「常識ハズレ」が,新発見や革新へと皆さんを導いてくれます。
第二に,「専門人としての己を磨く!」
金沢大学は,2008年4月から伝統的な学部学科制を改め,学域学類制を導入し,6年が経過しました。「経過選択制」や「副専攻制」を活かした自律的な学びを提供しています。専門の基礎を学びながら,自分の最終的な専門分野を選択し,自ら作る「学びの計画」に沿って,専門の知識を深め,スキルを磨き,創造力を育み,己を鍛えていただきたい。迷うことなく己の進路と目標を定め,その達成に向けて日々研鑽に努め,まい進することが大切です。大学にはそのための学びの自由があります。
そして第三に,「グローバル人材としての己を磨く!」です。世界を舞台に活躍し,世界との勝負に臨むには,総合的な人間力を鍛えることが大切です。まず国際コミュニケーション力,そして交渉力が必要です。次に高度な専門性に裏打ちされた広い視野と創造力,さらに実践力,それらが皆さんの未来を切り拓いてくれます。金沢大学は,日本人学生と海外からの留学生が共に切磋琢磨する学びの環境を提供します。また,海外留学をしようとする高い志を持つ皆さんを応援するために,奨学金制度も準備しています。
金沢大学は「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」を基本理念として,「東アジアの知の拠点」を目指し,グローバル人材の育成に力を注いでいます。「グローバル人材」の意味するところは,決して単に英語など外国語によるコミュニケーション能力に長け,海外で活躍するということだけではありません。金沢大学が考えるグローバル人材とは,歴史的かつ地勢的な自分の立ち位置を知り,論理的な思考に基づいて自分の考えを表現し,かつ己を鍛え人間力を高められる人材,そして科学的知識と客観的な根拠に基づき未来を予測し,日本文化の理解と国際コミュニケーション力をもって世界と積極的に交流できる人材です。皆さんにそうした人材になっていただけるよう,これから金沢大学は責任を持って,さまざまな学びのシステムを通し皆さんを鍛え抜くことを約束します。
本学は,創基150年を機会に寄附金の募集を開始し,広く卒業生や社会の皆さまにお願いしております。その多くの浄財は,皆さんが海外へ留学される場合,短期語学研修に行かれる場合などに奨学金として用いられますし,また留学生を海外から招くためにも使われます。金沢大学は,現在,世界各地の大学・研究機関と国際交流協定を締結しており,その数は約190に上ります。それらの協定校を活用して,海外の大学に出かけたり,あるいは留学生と交流したりすることは,自分とは異なった文化的背景を持ち,異なった考え方や生き方,価値観を持った人たちと深く触れあい,刺激を受けるための良い機会となります。こうした経験に皆さんは,時には悩むことがあるかもしれません。しかし,それは自らを大きく成長させる絶好の機会だと,私は固く信じています。
金沢大学が位置する都市としての金沢は,今から約430年前に,前田利家公が金沢城に入城して以来,加賀藩の城下町として栄え,天下の書府として長い歴史を刻んできました。戦禍を免れ,歴史ある街並み,伝統文化が庶民生活の中に息づいている「歴史都市」です。その歴史の中,「善の研究」で著名な西田幾多郎,アドレナリンの結晶化に成功した高峰譲吉,文豪
井上靖等,数多くの,近代日本の学術研究をけん引した,優れた研究者が輩出されてきました。この偉人達を生み育てた都市,金沢からも,大学のキャンパスでの授業に劣らず,多くのことを学びとっていただきたい。
そして,スポーツを通して基礎体力を付け,あらゆる困難に立ち向かう精神力を鍛え,そしてグローバル人材として世界に羽ばたく自分を創ってください。大学で学ぶ間,皆さん自身が是非とも「厳しく己を律し,己を鍛えて」いただきたいと考えます。
さらに,大学院の諸君にあっては,自由な精神,批判的な精神と真摯な態度で研究課題に向き合い,研究活動を通して真理を追究する好奇心と喜びを是非,堪能していただきたい。その際,研究者としての倫理の遵守については指摘するまでもありません。それらの経験が社会に出たとき,研究者や開発技術者などの礎となることでしょう。
150年の歴史・伝統を有する金沢大学で学ぶこと,また,歴史都市・創造都市金沢で学ぶことを誇りとし,教養豊かな未来の専門人,あるいは科学技術者として成長されることを祈念し,告辞といたします。
平成26年4月7日
金沢大学長 山崎 光悦