平成24年度 金沢大学学位記・修了証書授与式学長告辞

掲載日:2013-3-22
学長メッセージ

平成25年3月22日 いしかわ総合スポーツセンター

ここに,平成24年度金沢大学学位記・修了証書授与式が挙行されますこと,誠に慶賀に存じます。ただ今学域卒業生1,612名,学部卒業生164名,大学院修了生736名,別科修了生42名の方々に学位記・修了証書をお渡し致しました。皆さんおめでとうございます。心からの御祝いを申し上げます。ご家族・保護者の方々には,これまでのご苦労と本学へのご協力に感謝し,併せてお慶びを申し上げます。

世界には過去があり,現在があり,そして未来があります。過去・現在・未来は途切れているものではありません。過去・現在・未来は連続しているものであり,過去が現在を創り,現在が未来を創ります。人生の大きな区切りとなる今日,皆さんにはそれぞれに学生生活を振り返り,ここ金沢で過ごした日々が,いかなる時代にあったのかを胸に刻んで下さい。

振り返ってみますと,5年前の2008年(平成20年)にはリーマンショックに端を発した世界金融危機が勃発しました。2009年(平成21年)には米国ではオバマ政権が発足し,我が国では政権が交代(民主党政権が発足)しました。2010年(平成22年),上海万博が開催され2008年の北京オリンピック開催とが相俟って中国が世界に大きく発信されました。2011年3月11日,東北地方太平洋沖地震・津波・福島原発事故が発生し,ヨーロッパではユーロ危機が起こりました。昨年,2012年にはロンドンオリンピックで元気づけられるとともに,我国を含め多くの国々で,政権が交代しました。

「情報とコミュニケーション」を基盤とする,国境がない激動の時代であり,新しい世界観を模索する時代であったかと認識しています。

皆さんには,それぞれに過去そして現在をしっかりと認識し,自身の現時点における立ち位置を定めて下さい。

2年前,2011年3月11日,我が国を襲った東日本大震災は私達に衝撃を与え,日常風景を変えました。同時に,我々の心の持ち方にも大きく影響しました。2011年を表す漢字として,「絆」が選ばれました。絆の在り方は,内なる心の在り様を外に現します。

東日本大震災に際し,金沢大学では地震直後から様々な支援活動を行って来ました。附属病院の医療支援や心のケア,放射性物質を扱う専門家による汚染調査や汚染除去,地震の専門家としての情報発信や防災立案,学生の活力・奉仕精神が発揮された被災地でのボランティア活動,そして,救援への募金活動などであります。皆さんの中にはこれらの活動に参加された方がおられることと思います。今後とも,被災された方々の思いを大切にし,皆さんとともに復旧・復興に積極的に参加いたしたく存じます。そのような活動を通じて,日本と言う社会に,皆さんの心に,新しい世界観が芽生えて来るものと信じています。

かつては大学に入学し,卒業することは豊かさを保証するものであり,また,豊かさは比較的明確な形で私たちの前にありました。特に,白黒テレビ,電気洗濯機,電気冷蔵庫を三種の神器とした1950年代後半から1960年代前半の第一次高度経済成長期,三種の神器がカラーテレビ,乗用車,クーラーとなった1960年代半ばから1970年代前半の第2次高度経済成長期の頃。その時代,大学を卒業することは豊かさへの手形であり,社会が,国民一人一人に「自己の立ち位置,存在理由」を与えてくれました。皆さんが生きる21世紀,食糧を始めとする資源の逼迫,環境問題,情報とコミュニケーション,少子高齢社会,等地球規模の不安定要因が先導する形で,世界は不均衡の度合いが深まりつつあるように見られます。しかし,一方,情報と教育の一層のグローバル化,労働力の流動など,世界は平準化に向かって進んでおります。希望を持って将来を展望すれば,先進国,発展途上国が一体化することでしょう。その時,世界は格差の無い平等な破滅を迎えるのでしょうか,あるいは格差の無い豊かな社会となるのでしょうか。

世界は,人の尊厳を至上のものとした格差の無い豊かな社会へと向かわねばなりません。いかなる社会が豊かな社会かは茫漠としていますが,皆さんには,ここ金沢大学で今までに培った全てを投入し,歴史と言う時間軸と今生きる空間軸を座標とし,「自己の立ち位置」を定め,豊かな社会の構築に参画して下さい。

皆さんの母校,金沢大学は1862年に設立された加賀藩彦三種痘所を源流としています。それから数えて150年の昨年,2012年を大学の創基150年と位置付け,<先魁 共存 創造>の3つのキーコンセプトの下,本学のアイデンティティを具体的な姿として確立するべく事業を展開してきました。三年前,2010年には金沢城公園に「金沢大学誕生の地」の石碑を据え,一昨年,2011年には彦三種痘所の故地に「金沢大学発祥の地」の石碑を建立しました。石碑は,金沢大学濫觴の証を後世に向けて伝え続けます。また,昨年5月30日には金沢大学創基150年式典を挙行いたしました。

その挨拶の最後で,私は,「過酷な労働の必要もなく衣食住が満たされる時代にあっても,人は,決して愛や遊びのような形而下の営みで満足することはなく,知的活動・知の創造にこそ満足を見いだすことになることでしょう。こうした世界においては,大学は,多くの人が集い活動し,「知の継承・知の創造」に満足を見いだす場となるでしょう。そこでは、知の拠り所(トポス)であること自体が,すでに「社会のため」の大学となることであり,私は,そのような時代においても金沢大学が光り輝くことを確信しています。」と申しました。本年,創基150年記念事業の締めくくりとして,キャンパスに,「学問の木」,「大器晩成の木」と称される楷の木を植樹します。光り輝く金沢大学を見守る大樹に育ち,皆さんを迎えることでしょう。

現下の金沢大学は「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」を基本理念として,「東アジアの知の拠点」を目指し,世界の平和と人類の持続的な発展に資するよう,一層の努力を致します。皆さんには,生涯を通じて,自らを高めるとともに,本学の営みに積極的に参加して下さることを願っています。

「自ら信じるところ篤ければ,成果自ずから到る」。赤痢の病原体の赤痢菌を発見した細菌学者

志賀潔(1871−1957)の言葉です。大量生産・大量消費を特徴とする20世紀型工業文明の基盤を構成する認識・思考・価値観の転換,パラダイムシフトが進行している今,皆さんが進まれる分野はいかなるものであれ,自らを信じ突き進み,新たな知を創造することを期待します。

金沢大学は皆さんの,知の創造の原点という意味で,母なる港、母港であります。同窓生として,仕事の関係で,また再び学ぶために母校を訪ねられることがあれば,母校は暖かく迎えることを約束します。皆さんが,金沢大学の新しい歴史を刻む第一歩の年,創基151年に卒業することを胸に刻み,新しい知の創造を担う「彊い金沢大学卒業生,彊い社会人」として勇気をもって志高く,グローバルに活躍されることを願い,告辞と致します。

平成25年3月22日

金沢大学長 中村 信一

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