2011年1月4日 大会議室
新年おめでとうございます。「新しき年の始めの初春の今日降る雪のいや重(し)け吉事(よごと)」。これは大伴家持が因幡国の国守として赴任して初めて迎えた元旦に詠ったものです。当時,新年に降る雪は幸いの兆しとされていたといいます。今年も年末から雪が降り,元旦は雪こそぱらつく程度でしたが一面の銀世界でした。万葉の昔のように,良い予兆あれかしと願う新年です。
さて,昨年は,大学関係の基盤的経費,競争的経費等の削減や見直しが提案され,関連して国大協等様々な機関・団体が声明文の提出や要望活動を行いました。その中でも,昨年秋のパブリックコメントへの大学教職員および学生による発信は,高等教育の危機を国に強く訴えるものでありました。その訴えを反映する形で,23年度の運営費交付金は前年度比0.5%減にとどまり,科学研究費は633億円の増となりました。しかしながら,一般運営費交付金については,附属病院の有無等により各大学に1.0%, 1.3%, あるいは1.6%の大学改革促進係数が課せられております。この点を踏まえて,一層の緊張感を持ちながら運営に携わる所存でおります。
今,求められていることは教職員一人ひとりが,大学と日本における高等教育との関わり,大学と国家の未来との関わり,大学と世界との関わり,等を大学の問題としてだけではなく,個々人の問題として深く考え,「自分達の大学は自分達で造る」との気概を持って,諸課題に取り組んでいくことです。このような教職員一人ひとりの姿勢が,金沢大学をより高みに上げる原動力となることと信じています。今年はリーディング大学院構想やキャンパスアジア構想と,大学の国際化を後押しする政策が提案されています。これらの競争に,教職員一丸となってチャレンジする覚悟を,この日を期に新たにしています。
本年4月からは,第2期中期目標・中期計画期間の2年目になります。振り返りますと,昨年は金沢大学アクションプラン2010を公表し,アクションプランと中期目標・計画に沿った種々の事業を展開できました。これも,全ての教職員の参加と努力の結果と,感謝しております。数例をあげれば,7月にはがん研究所が共同利用・共同研究拠点としての認定を受けました。研究の活性化については,3研究域に大学戦略分の教員定員を用いて設置する,研究域内研究センター構想がほぼ完成し,各研究域に2センターを立ち上げることになりました。これらを活用し,アジアの基幹大学に成長することを願っています。
本年4月から始まる新年度(平成23年度)は,3年前に出発した学域学類制の第一期生を送り出す年度であります。受験生数の変化に一喜一憂し,学類の教育に加えて学部学生の教育が並行し,試行錯誤の3年間でしたが,今年は学生の就職というファクターを通して,学域学類制の社会的評価を初めて受けます。学生と関わる職員の支援が欠かせません。本学が標榜する「教育重視」の大学として,教育における教職員と学生との相互協力の重要性に思いを致し,また,学生のあるべき姿をも教育することにより,次世代の社会を担う有為な人材の育成に力を尽くして頂きたく存じます。
昨年の年頭の挨拶で,留学生500名を目指すとしましたが,うれしいことに,昨年末で留学生数は511名となりました。これも,教員と職員がともに目標に向かって努力された賜物と感謝しています。昨年12月に開きました留学生懇談会は,例年になく多様な留学生にあふれ,国際色豊かな懇談会でした。ここで感じた事は,時代の文化・文明を強く反映する大学という場では,異なる文化を背負っている人材のるつぼであることが,いかに組織の活性化を促すかということです。文明の交差点で新たな文明が生まれるとは,言い古されたことですが,再度実感したところです。今年11月は,アジア学長フォーラムとサテライトとして,アジア学生フォーラムを開催する予定です。韓国,中国,ベトナム,タイからの学長と留学生の会議ですが,これに加えてアジア大学職員フォーラムもどうだろうかと,思い描いているところです。
リージョナルセンターとしての大学として,地域の自治体との絆を,これまで以上に密にして歩んでいくことを願っています。今年は,長年期待しておりました金沢美術工芸大学との連携協定を結び,互いに補い合う関係を築いていく第一歩となります。また,附属病院は「日本の医療の要は大学である」との基本認識のもと,金沢大学方式ともいえる地域医療の在り方を金沢から発信し,リサーチ・マインド豊かな良医の育成に励んで頂きたく存じます。また,人々が健やかな時は健康で過ごせるよう,病める時は安心して任せられるような医療の提供を通して,地域に基本的医療の確約と先進的医療開発が加速されること,医療に直接・間接を問わず,関わりある全ての教職員に期待しています。
今年3月で,早いもので学長の任について3年が過ぎます。4月からは,学長任期6年の後半に入ります。これまでは,明日を目指して考えることが多く,明日を見据えた施策を打ってきました。大学は不安定な台座に乗った船のように,頼りなく感じることもありますが,そこは教職員諸氏の日々の奮闘により,大いに助けられています。まだまだ,先を見据えた施策を打って出なければ,この激動の時代に金沢大学は埋没してしまうという危機意識を持って,次の3年間の営みを続ける覚悟でおります。後半3年の初年度にあたり,初心を忘れることなく,5つの柱からなるビジョン,「我が国ベスト10大学を目指すこと」,「世界的な教育研究の拠点となること」,「次世代の優秀な人材を育成すること」,「リージョナルセンターとして機能すること」,そして「法人としての自主・自律的な運営を行うこと」を胸に刻み励みたく存じます。全ての教職員が,互いに,尊敬と労りの心を持って,大学の明日に向けて邁進しようではありませんか。
平成23年1月4日
金沢大学長 中村 信一