平成27年4月7日 いしかわ総合スポーツセンター
兼六園,石川門の桜が咲き誇る本日,晴れて金沢大学に入学した新入生の皆さん,誠におめでとうございます。金沢大学の教職員を代表してお祝いを申し上げますと共に,皆さんを心から歓迎いたします。また,この日を心待ちになさっていたご家族の皆さまにも,心よりお祝いを申し上げます。
ただ今,学域入学生1,852名(1年生1,792名, 編入生60名),大学院入学生763名,別科入学生32名の入学許可を宣言致しました。この内,留学生は76名となっています。総勢2,647名の皆さん,皆さんは今日から金沢大学の学生です。これからの大学生活では,勉学に勤しんでいただくことは勿論,多くの素晴らしい先生方,職員,そして先輩,友人と出会い,人間として,未来の研究者として,そして専門職業人として大きな成長を遂げてくれることを願っております。
皆さんの「母校」となる金沢大学は1862年(文久2年)に設立された加賀藩種痘所を源流とし,石川師範学校(1874(明治7)年設置),第四高等中学校(1887(明治20)年設置),金沢高等工業学校(1920(大正9)年設置)を統合して,1949年に新制金沢大学としてスタートしました。そして今日では,3学域・16学類,5研究科を擁する,150年以上の歴史と伝統を誇る総合大学にまで発展してきました。
私たちを取り巻く周囲の状況の厳しさは,皆さんも十分に承知のことと思います。東日本大震災からの復旧・復興をはじめ,日本の国際競争力の復活や,少子高齢化と地域創成,資源・エネルギーの確保,宗教・民族対立など,我々は多くの課題に直面しています。これらの諸課題の解決には,人類の英知を結集し,息の長い着実な取り組みが必要であります。
立ち向かわねばならない課題が多くあればあるほど,困難であればあるほど,「大学で学ぶこと,大学院で学ぶことの意義」は大きく,重要となってくるはずです。若い皆さんに対する社会の期待も,当然大きなものがあります。
そこで皆さんに問いかけたいのです。胸膨らませて入学された皆さんは何に憧れ,何を期待して金沢大学に入学したのでしょうか? 学士課程にあっては4年間あるいは6年間,大学で学ぶ目的は何なのでしょうか? 選んだ専門分野の知識とスキルを体系的に身に付ける,免許・資格の取得に向けて頑張る! それは当然ですが,それだけなのでしょうか?大学院課程にあっても,その目的は何なのでしょうか?さらに高度な知識を修得し,研究に従事する経験を経て学位を取得することは勿論でしょうが,それだけなのでしょうか?純粋に皆さん自身に問いかけてみてください。
その問への私の答えは,「己を磨く!」です。すなわち「人間としての己を磨き,専門人としての己を磨く,そしてグローバル人材としての己を磨く!」に尽きます。具体的な目的はどうあれ,これらこそが,皆さんの目的の根底に据えるべきものではないでしょうか。そのためには,皆さん個々人が,何をどう考え,どんな学びの計画を立て,どう大学生活を過ごせば良いのかを自ら模索することが大切なのです。
大学での学びは,今までの高校での授業とは違い,自分で学びたいものを自由に選択し,自己形成に励まなければなりません。「高校まではプール。大学は海!」に例えることができます。プールは広さも深さも見渡せます。今までの学びは,プールの底が見えるように,何をどこまでどの順序で学べば良いのかがはっきりしていました。つまり明快な地図とゴールが示されていました。それに比べ大学での学びは,沖に出た海のように底が見えないのです。プールよりずっと広々として深いところを自由に泳ぐ爽快感があり,神秘的で美しいのですが,その一方で大いに危険を伴います。そもそも学問に終着駅はないのです。
自由に立てた学びの計画は,その結果に自分で責任を持たねばならないのです。是非とも,自問自答を繰り返し,悩んでください。志操堅固の気概をもってすれば,自ずととるべく道,選択すべき方向性が見えてくるはずです。迷って選択し,その結果,失敗することもあるでしょう。その失敗こそが諸君を強くしてくれます。決して失敗を恐れてはいけません。
自分の学ぶ目的,目標が定まり,それらの目的を達成するために「大学で学ぶ」という結論に到達したとき,皆さんに最も期待したいのは,何よりも大学に在学する間,死に物狂いで学ぶことです。単に知的好奇心を満たすだけに止まらず,物事の全容とそこに内在する課題を解決に導くことができるような,鋭い洞察力と卓越した予測の力を身に付けていただきたい。社会に出て活躍するには,まだまだたくさんの知らないことがあることを自覚し,学ぶことに対するハングリーさ,飢餓感をもって,貪欲なまでに学び,己を高めていただきたい。「大学での学び」においては,教科書や本で,教室や実験室で学ぶことのほか,社会や企業体験を始めとするインターンシップ,海外留学で学ぶことがますます重要な要素になっています。最終的には,自らよく考え,能動的に学ぶ姿勢,態度を身に付けることが,人生の成功へと皆さんを導いてくれるはずです。
「己を磨く!」の方針に沿って,自らの学びの計画を立てるためのヒントをもう少しお話しましょう。
第一に,「人間としての己を磨く!」 皆さんには,人文科学,社会科学,そして自然科学の基礎知識・常識を積極的に学び,教養を深め,高い倫理観と,新しいアイディアを創造する力やそれを具現化する実践力など,いわゆる「人間基礎力」を磨いていただきたい。批判的思考力と歴史・文化に対する自分自身の価値観,世界観を持つことが大切です。
いろいろな人々と交わり,友人を作り,生涯の友を見つけてください。出会いと別れ,恋愛を経験して優しさと厳しさを合わせ持ち,他人の悲しみが理解できる深みのある人間として成長していただきたい。また,他の人とは違う自分を見つけ,磨いていただきたい。それがやがては皆さん自身の個性,強みとなるはずです。時には型破りでもいい。他の人や世間とは異なった「常識ハズレ」が,新発見や革新へと皆さんを導いてくれます。
第二に,「専門人としての己を磨く!」です。金沢大学が2008年4月,伝統的な学部学科制を改め,学域学類制を導入し,7年間が経過しました。以降,「経過選択制」や「副専攻制」を活かした自律的な学びを提供しています。専門の基礎を学びながら,自分の最終的な専門分野を選択し,自ら作る「学びの計画」に沿って,専門の知識を深め,スキルを磨き,創造力を育み,己を鍛えていただきたい。迷うことなく己の進路と目標を定め,その達成に向けて日々研鑽に努め,まい進することが大切です。大学にはそのための学びの自由があります。
そして第三に,「グローバル人材としての己を磨く!」です。世界を舞台に活躍し,世界との勝負に臨むには,異文化を理解し受入れる寛容性と総合的な人間力を鍛えることが大切です。まず国際コミュニケーション力,そして交渉力が必要です。次に高度な専門性に裏打ちされた広い視野と創造力,さらに実践力,それらが皆さんの未来を切り拓いてくれます。金沢大学は,日本人学生と海外からの留学生が共に切磋琢磨する学びの環境を提供します。海外留学をしようとする高い志を持つ皆さんを応援するために,奨学金制度も準備しています。
金沢大学は「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」の位置付けをもって改革に取り組むことを基本理念として,「東アジアの知の拠点」を目指し,グローバル人材の育成に力を注いでいます。「グローバル人材」の意味するところは,単に英語など外国語によるコミュニケーション能力に長け,海外で活躍するという意味だけでは決してありません。
金沢大学が考えるグローバル人材とは,歴史的かつ地理的な自分の立ち位置を知り,論理的な思考に基づいて自分の考えを表現し,かつ己を鍛え人間力を高められる人材,そして日本文化の理解を背景に国際コミュニケーション力をもって世界と積極的に交流し,科学的知識と客観的な根拠に基づき未来を予測できる人材です。金沢大学は,それを「金沢大学<グローバル>スタンダード」として定めています。皆さんにそうした人材になっていただくよう,これから金沢大学は責任を持って,さまざまな学びのシステムを通して皆さんを鍛え抜きます。
金沢大学は昨年度より,文部科学省のスーパーグローバル大学SGUに選定され,今後10年間をかけて,大学,大学院教育の徹底した国際化を進めます。洗練された教授陣が英語で皆さんを鍛える教育を開始するとともに,全学生のうち留学生が占める割合を約2割まで増やし,キャンパス内の環境を徹底的に国際化します。また皆さんには,在学中に短期間,語学研修でもよいので,是非,一度は海外留学を試みてくれることを期待します。そしてできれば,2回目は半年間,あるいは1年間の海外協定校との交換留学にチャレンジしてください。必ず,貴方がたの国際的な対応能力,隠れた能力を自己開発できるはずです。
また本学は,創基150年を機に寄附金の募集を開始し,広く卒業生や社会の皆さまにご寄附をお願いしております。その多くの浄財は,皆さんが海外へ留学される際や短期語学研修にでかける際の奨学金として用いられ,また,留学生を海外から招くためにも使われます。金沢大学は,現在,世界各地の大学・研究機関と国際交流協定を締結しており,その数は200以上にのぼります。それらの協定校を活用して,海外の大学に出かけたり,あるいは留学生と交流したりすることは,自分とは異なった文化的背景を持ち,異なった考え方や生き方,価値観を持った人たちと深く触れあい,刺激を受けるための良い機会となります。こうした経験に皆さんは,時には悩むかもしれません。しかし,それは自らを大きく成長させる絶好の機会だと,私は信じています。
そしてスポーツを通して基礎体力を付け,あらゆる困難に立ち向かう精神力を鍛え,グローバル人材として世界に羽ばたく自分を創ってください。大学で学ぶ間,皆さん自身が是非とも「厳しく己を律し,己を鍛えて」いただきたいと考えます。
さらに大学院の諸君にあっては,自由な精神,批判的な精神と真摯な態度で研究課題に向き合い,研究活動を通して真理を追究する好奇心と喜びを是非,堪能していただきたい。その際,研究者としての倫理の遵守については指摘するまでもありません。それらの経験が社会に出たとき,研究者や開発技術者などとして成長するための礎となることでしょう。
150年の歴史・伝統を有する金沢大学で学ぶこと,また,歴史・文化・創造都市金沢で学ぶことを誇りとし,教養豊かな未来の専門人,あるいは科学技術者として成長されることを祈念し,告辞といたします。
平成27年4月7日
金沢大学長 山崎 光悦