平成31年度入学宣誓式学長告辞

掲載日:2019-4-7
ニュース 学長メッセージ

平成31年4月7日 石川県産業展示館4号館

難関を突破し,本日,晴れて金沢大学に入学された新入生の皆さん,ご入学おめでとうございます。金沢大学の教職員を代表してお祝いを申し上げますとともに,皆さんを心から歓迎いたします。また,この日を心待ちにされていたご家族の皆さまにも,心よりお祝いを申し上げます。

ただ今,学域,大学院,別科を合わせて2,601名の皆さんの入学許可を宣言しました。皆さんは今日から金沢大学の学生です。本学学生となることができたことに誇りを持ち,これからの大学生活では,金沢大学の一員としての自覚と己の行動に責任を持って学生生活を過ごしていただきたい。勉学に勤しむことはもちろん,素晴らしい先生方,友人と出会い,貴重な体験を通して,人間として,専門職業人として,そして未来の研究者として,大きく成長を遂げてくれることを願っております。

現在の入学試験制度では皆さんが持っている能力のうち,記憶や理解力を中心とした,ごくごく一部の能力だけしか試すことができていません。皆さんには現在の入試では試すことができていない,多彩な未知の能力,未来の可能性があるのです。社会はいろいろな能力やスキルを持った人間の集まり,集団で構成されています。総合大学である金沢大学の利点,特色を生かし,分野を越えて大いに学び,積極的に異なる分野の学友と交わり人間力形成に専念されることを,そして特に他の人とは違う,尖った自分を創り磨かれることを期待します。

そのためには,まず現代社会についての現状認識が重要です。皆さんを取り巻く世界の状況は,今,まさに大きな変革期を迎えています。全ての物をネットワークで結合して得たデータを活用するIoT技術や,第4次産業革命を巻き起こす取組みが,社会全体を巻き込んだ総力戦によって展開されています。日本政府が掲げる超スマート社会Society5.0の実現も含め,ビッグデータと人工知能(AI),自動運転など,未来社会の実現に向けた新しいモノ造りやサービスの提供,新しいビジネスモデルが次々と生まれております。これからは数理・データサイエンスの知識やスキルが問われる場面が頻発し,AIと共に働く,そんな世界が眼前に迫っています。知識を吸収するだけの薄っぺらな学びでは,やがてAIにとって変わられてしまいます。「未来の雇用」を著したマイケル・オズボーンは2025年までに,現在ある職業の半分以上は消えると予言しています。皆さんには未来課題に果敢に挑戦して,むしろAIを使いこなす人材に成長してほしいと願っています。
立ち向かわねばならない,こうした未来課題が多くあればあるほど,困難であればあるほど「大学で学ぶこと,大学院で学ぶことの意義は大きく,重要となってくる」はずです。若い皆さんに対する社会の期待も,当然大きなものがあります。

そこで皆さんに問いかけたい。「胸膨らませて入学した皆さんは,何に憧れ,何を期待して金沢大学に,あるいは大学院に入学したのでしょうか?」 選んだ専門分野の知識とスキルを体系的に身に付ける,それは当然ですが,それだけなのでしょうか? 大学院課程にあっても,さらに高度な知識を修得し,研究に従事する経験を経て学位を取得することはもちろんですが,それだけなのでしょうか? あらためて皆さんご自身に,問いかけてみてほしい。

その問への私の答えは,「己を磨く!」に尽きます。すなわち「人間としての己を磨き,専門人としての己を磨く,そしてグローバル人材としての己を磨く!」ことです。

さらに皆さんに問いかけたい。「しかし,何を目的とし,何を達成するために,己を磨かなければならないのか?」このことを各自,常に自問自答して,自分の学ぶ目的,目標を定めてほしい。専門力を磨き,それを活用して大成したい,幸せに暮らすために安定した収入を得たい,世界を舞台に活躍したい,地域コミュニティに貢献したいなど,それぞれの夢の実現に向け,努力されることを大いに期待しますが,それ以上に社会の一員として,やがては社会を牽引する中核リーダーとなって,わずかでもいい,その持続的な発展と人類の幸福に貢献しなければならないことを,この機会に肝に命じてほしい。一人一人がそう自覚することで,理想の未来社会の実現に近づくことができます。

自分の学ぶ目的,目標が定まり,それらの目標を達成するために「大学で学ぶ」という結論に到達したとき,皆さんに最も期待したいのは,何よりも「死に物狂いで学ぶ」ことです。単に知的好奇心を満たすだけに止まらず,物事の全容とそこに内在する課題を解決に導くことができるような,鋭い洞察力と,卓越した予測の力を身に付けていただきたい。社会に出て活躍するには,知らないことがまだまだたくさんあることを自覚し,学ぶことに対するハングリーさ,飢餓感をもって,貪欲なまでに学び,己を高めていただきたい。

「己を磨く!」の方針に沿って,自らの学びの計画を立てるためのヒントをもう少しお話しましょう。

第一は「人間としての己を磨く!」ことです。皆さんには,人文科学,社会科学,そして自然科学の基礎知識・常識を積極的に学び,教養を深め,高い倫理観と,新しいアイデアを創造する力やそれを具現化する実践力など,いわゆる「人間基礎力」を磨いていただきたい。

本学は,金沢大学ブランドの人材育成を教育目標に掲げ,「金沢大学<グローバル>スタンダード」(KUGS:Kanazawa University Global Standard)を定めています。将来,社会に出て活躍する上で必要となる基本的かつ不可欠な素養,基礎力を5つの能力,すなわち「自己の立ち位置を知る」「自己を知り,自己を鍛える」「考え・価値観を表現する」「世界とつながる」,そして「未来の課題に取り組む」こととし,本学が送り出す全ての卒業生・修了生が,これらの能力を備えることを目指しています。グローバル・スタンダード科目,いわゆるGS科目を32科目準備し,国際基幹教育院が実施する共通教育を通して,それらの基礎力を育み,皆さんを鍛え抜こうとするものです。食べ物に例えるなら,身体の成長,栄養バランスを考えて,好きなお肉やハンバーグだけではなく,それと併せて嫌いな野菜やお魚も同時に摂取する,選択幅のある定食メニュー方式になっています。本学は,クラスにおいてもお互いが切磋琢磨しながら自ら学びを深める「アクティブ・ラーニング」を多く取り入れつつあります。自ら能動的に学ぶ姿勢,態度を身に付けることが,やがて人生の成功へと皆さんを導いてくれるはずです。

第二は「専門人としての己を磨く!」ことです。学域学類制では専門の基礎を学びながら,経過選択制によって自分の最終的な専門分野・コースや学位プログラムを選択します。自ら作る「学びの計画」に沿って,専門知識を深め,スキルを磨き,創造力を育み,そして己を鍛えていただきたい。特に後期一括入試で入学した諸君は,これから1年間をかけて専門分野の具体的な選択に迫られます。

金沢大学は,平成28年度から国が進める国立大学の機能強化の3つの枠組みから,第3類型「卓越した成果を創出している海外大学と伍して,全学的に卓越した教育研究,社会実装を推進する大学」,いわゆる世界卓越型を選択しました。また平成29年10月には文部科学省が推進する世界トップレベルの国際研究拠点形成事業WPIに旧帝大をはじめ並み居る競合を抑えて採択され,ナノ生命科学研究所を設立しました。10年間かけて細胞の表面や内部の動態,ダイナミックスを観察するナノ内視鏡を開発し,世界初の新しい学問分野,ナノプローブ生命科学の創出を目指しています。引き続き,平成30年8月にはナノマテリアル研究所も創設しました。これらは世界最先端の研究開発プロセスに学生,大学院生を晒し,国際通用性のある人材育成,大学院教育の高度化,そして国際ネットワーク構築などを通して世界トップレベルの教育研究拠点の形成を目指すものです。金沢大学は,卓越した教育研究を推進する国立大学であり続けるため,全教職員が一丸となって,それぞれの分野で特色ある世界トップレベルの研究成果の創出に日夜努力を重ねております。そうした教育研究環境で,諸君が自分自身をどう鍛えるかは,皆さんお一人お一人の心構え,覚悟にかかっています。

高校までの学びをプールに例えるなら,「大学での学び」は深く広い大海に例えることができます。学問分野の範囲やその深さに限界はありません。教科書や文献で,教室や実験室で学ぶだけではなく,社会や企業体験を始めとする国内外の現場でのインターンシップ,先生方の国際ネットワークを活用した海外研究室でのラボトレーニング,起業を目指すアントレプレナーシップなどがますます重要になってきています。キャリア形成,将来の職業を意識しながら,巡ってくるチャンスを的確に捉え,多くの感動体験を通して,他の人とは違う自分を見つけ,磨いていただきたい。それがやがては皆さん自身の個性,特色,強みとなるはずです。

そして第三に,「グローバル人材としての己を磨く!」ことです。世界を舞台に活躍したい諸君も,地域コミュニティに貢献したい諸君も,自国の文化を背景に異文化を理解し,受け入れる寛容性と総合的な人間力を鍛えることが大切です。国際コミュニケーション力,交渉力,そして高度な専門性に裏打ちされた広い視野と創造力,さらに世界が直面する諸課題を解決に導く実践力,それらが皆さんの未来を切り拓いてくれます。

金沢大学は平成26年度より文部科学省のスーパーグローバル大学創成支援事業(SGU)に選定されています。10年間かけて大学・大学院教育の英語化,ラーニング・コモンズをはじめとするキャンパス環境の徹底した国際化・グローバル化を進めています。皆さんには,在学中に,短期間でもよい,少なくとも一度は海外留学に挑戦していただきたい。海外には,日本国内に留まっていては分からない,全く違う世界が広がっているからです。海外留学は確実に皆さんの視野を広め,目標を高めてくれます。そのために,日頃から国際コミュニケーション力,英語による会話力を磨いてほしい。世界と交わるには,まず日本の文化,日本と世界の歴史を理解し,批判的思考力と歴史・文化に対する自分自身の価値観,世界観を持つことが大切です。

金沢大学は2学期4クォーター制を導入しています。これを活用して海外留学にチャレンジしてください。トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラムを始めとする政府の奨学金を活用した支援制度を充実させています。学内でも,独自の奨学金を準備して皆さんの留学を応援しています。本学は世界各地の大学・研究機関と国際交流協定を締結しており,その数は現在250以上の大学・機関にのぼります。そうした協定校との交換留学プログラムや,本学独自の短期留学プログラム,そして国際インターンシッププログラムなどに,多くの先輩たちが参加しています。それらの機会を活用して海外の大学に出かけたり,あるいは本学に来ている留学生と交流したりすることは,自分とは異なった文化的背景を持ち,異なった考え方や生き方,価値観を持った人たちと深く触れ合い,刺激を受ける良い機会となります。さらに,諸君の国際的な対応力や隠れた才能を伸ばし,自らを大きく成長させる絶好の機会となると,私は信じます。決して失敗を恐れてはいけません。挫折を経験することが諸君を精神的に強くしてくれます。「未来はやってくるものではなく,自分で切り拓くものです。」大学で学ぶ間,皆さん自身が是非とも厳しく己を律し,己を鍛えねばならないのです。

150年以上の歴史と伝統を有する金沢大学で学ぶこと,また歴史・文化・創造都市金沢で学ぶことを誇りとし,教養豊かな未来の専門人,社会変革を先導するイノベーター,あるいは科学技術者として成長されることを祈念し,告辞といたします。

平成31年4月7日

金沢大学長 山崎 光悦

 

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