脂肪肝を悪化させるケモカインを特定

掲載日:2022-1-6
研究

金沢大学医薬保健研究域医学系の長田直人講師らの研究グループは,非アルコール性脂肪性肝疾患(いわゆる脂肪肝)の進行の原因として,CCL3と呼ばれるケモカイン分子が,重要な役割を果たしていることを明らかにしました。

脂肪肝とは肝臓に中性脂肪が蓄積して障害されている疾患です。脂肪肝の原因の1つはアルコールの飲みすぎですが,近年,ほとんどアルコールを飲まないにもかかわらず肥満などの生活習慣病に伴って生じる非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease: NAFLD, ナッフルディー)が増加しています。NAFLDには脂肪蓄積しか認めない単純性脂肪肝と,さらに進行して炎症と線維化も生じる非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis: NASH, ナッシュ)があり,NASHから肝硬変や肝癌に進行することもあります。NAFLDの進行にはケモカイン(※1)と呼ばれる分子が関与していると考えられていましたが,ケモカインは約50種類あり,どのケモカインが疾患の進行に本質的な役割を果たしているのかわかっていませんでした。

本研究では,ケモカインの一つであるCCL3(※2)に注目し,研究グループが確立したNASHモデルマウスを用いて,さまざまな重症度のNAFLD患者の肝病理像と血液中のCCL3濃度を比較・検討しました。その結果として,NAFLDの進行において,CCL3が重要な役割を果たしていることを明らかにしました。CCL3欠損マウスでは,対照の野生型マウスに比べて高脂肪・高コレステロール食によるインスリン抵抗性と脂肪肝炎(肝臓の脂肪蓄積・炎症・線維化)が軽減されていました。肝臓における炎症反応の主役である肝内マクロファージの性質を調べてみると,CCL3欠損マウスでは炎症性M1マクロファージが少なく,常在型M2マクロファージが多い状態でした。また,マウス腹腔マクロファージをCCL3と共に培養すると,M2よりM1の性質を示したことから,CCL3がマクロファージに直接作用し,炎症を増大させる可能性があります。さらに,NAFLD患者の血液中のCCL3濃度はNAFLDの重症度に従って増加することも見出しました。

本研究の成果は,CCL3ケモカインの作用を阻害することが,NAFLDの有効な治療方法になる可能性を示しています。今後は,CCL3受容体阻害薬の開発につながることが期待されます。

本研究成果は,2021年10月14日に国際学術誌『Metabolism: Clinical and Experimental』のオンライン版に掲載されました。

 

 

図1.

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は,1日20g(女性)~30g(男性)以上のアルコール摂取が無いにも関わらず,肝臓の5%以上に脂肪蓄積を認める病態である。NAFLDの一部は炎症と線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)であり,肝硬変や肝細胞がんに進行し得る。ケモカインCCL3は,常在性M2マクロファージよりも炎症性M1マクロファージによって産生されている。NAFLDの進行過程において,CCL3は1)骨髄から肝臓への単球の遊走を促進する,および2)肝内マクロファージ極性をM1優位とする,ことにより肝臓の炎症を悪化させる。肝臓における炎症の慢性化はインスリン抵抗性の誘導やコラーゲン線維を産生する肝星細胞の活性化をもたらす。

 

 

 

 

 

【用語解説】

※1  ケモカイン
細胞の遊走(Chemotaxis; ケモタキシス)を促すタンパク質であり,病原微生物の感染部位に白血球をはじめとする免疫細胞を呼び込み,免疫反応を促進させる作用を持つ。現在,約50種が知られている。

※2  CCL3
マクロファージによって作り出されるケモカイン。マクロファージ炎症タンパク質-1α(MIP-1α)としても知られている。CCL3は多形核白血球の浸潤や活性化,好中球による活性酸素種の生産に関わり,急性炎症を誘導すると考えられている。

 

 

Metabolism: Clinical and Experimental

研究者情報:長田 直人

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