多くのがんの治療や診断への応用が期待される 新規「中分子薬剤」の開発

掲載日:2022-11-16
研究

医薬保健研究域薬学系の淵上剛志准教授,ナノ生命科学研究所の宮成悠介准教授,新学術創成研究機構の小川数馬教授,長崎大学医歯薬学総合研究科の野﨑伊織大学院生らの共同研究グループは,多くのがん診断・がん治療医薬品への応用が期待される,これまでに報告例のない新しいタイプの中分子薬剤の開発に成功しました。

Survivin(※1)は,ほとんどの正常細胞では検出されませんが,多くのがん細胞で高発現しているタンパク質で,がんの診断薬や治療剤の有望な標的として期待されています。しかしながら,現在までに医療の現場において,survivinを標的とする医薬品の実用化には至っていません。

今回,本研究グループは,独自の分子設計にてsurvivinへ強い結合性を示し,がん細胞の検出や生体内のがん細胞を退縮させることができる新しい中分子化合物(※2)を見出しました。本研究をさらに発展させることにより,あらゆるがんの診断や治療へ適応できる医薬品の開発につながることが期待されます。
 

本研究成果は,2022年11月1日アメリカ化学会が出版する国際化学誌『Bioconjugate Chemistry』のオンライン版に掲載されました。

 

図1:FITC-Bor65-75 の細胞内集積
(A) 細胞内への蛍光標識ペプチド誘導体 FITC-Bor65-75の集積 (緑) とsurvivinの発現部位 (赤)
(B)  (A)の画像矢印領域の蛍光強度解析
FITC-Bor65-75の集積部位はsurvivinの発現部位と類似していることから,このペプチド分子がsurvivinを高選択的に認識していることが示唆された。

 

図2 r9-Bor65-75 (10 μM) の細胞殺傷効果
ペプチド誘導体r9-Bor65-75は,がん細胞であるMIA PaCa-2細胞やMDA-MB-231細胞へ強い細胞殺傷効果を示す一方で,正常細胞のMCF-10A細胞へは非常に弱い毒性しか示さなかった。

 

 

図3r9-Bor65-75の腫瘍モデルマウスへの抗腫瘍活性評価
両肩に膵臓がん細胞 (MIA PaCa-2) を移植したマウスの右肩にr9-Bor65–75 (10 mg/kg) を,左肩に注射液のみを24時間後ごとに7日間投与した後の腫瘍体積変化。r9-Bor65-75を投与した腫瘍組織では薬物を投与していない腫瘍組織に比べて大幅な腫瘍組織の退縮効果が見られた。

 

【用語解説】

※1:Survivin
アポトーシス阻害と有糸分裂制御の2つの機能を併せ持つ細胞内タンパク質であり,多くのがん細胞に高発現している。

※2:中分子化合物
低分子と高分子の中間の分子量 (分子量500~5000程度) を持つ化合物であり,天然物やペプチド類縁体,核酸類縁体など多岐にわたる。次世代の医薬品としての応用が期待される有望な化合物が近年多数開発されている。

 

プレスリリースはコチラ

掲載誌:Bioconjugate Chemistry

研究者情報:淵上 剛志
       宮成 悠介
       小川 数馬

 

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