シチズンサイエンスで挑む雷の謎 ―宇宙線と雷雲の相互作用は、雷の始まりに影響を与えるのか?―

掲載日:2023-7-18
研究

 京都大学大学院 理学研究科 鶴見美和 特別研究学生 (青山学院大学 理工学研究科 修士2年),榎戸輝揚 同准教授(理化学研究所 開拓研究本部 理研白眉研究チームリーダー兼務),金沢大学 人間社会研究域 地域創造学系 一方井祐子 准教授らの研究グループは,岐阜大学,名古屋大学,早稲田大学他と共同で,雷雲から地上に降り注ぐガンマ線を,市民サポーターと連携したシチズンサイエンス(※1)「雷雲プロジェクト」で観測しています。

 このプロジェクトでは,市民サポーターの自宅に小型の放射線モニタ「コガモ」を設置することで観測網を構築し,雷雲から地上に降り注ぐ「雷雲ガンマ線(※2)」を多地点で観測します。2021 年 12 月 30 日に,金沢市の 5 地点で,雷雲から放射されたガンマ線の検出に成功しました。これは,上空の雲の中に電子を相対論的な速さまで加速する強い電場が存在することを示します。さらに,電波やレーダー観測と組み合わせ分析した結果,ガンマ線を出す電子を加速する強い電場領域の近くから雷放電が始まったことが明らかになりました。これは,「雷がどのように始まるか,宇宙のはるか彼方から到来する宇宙線が関係するのか」という長年の未解決問題を解く上でも鍵になると期待され,本研究グループでは今後も類似の現象を観測し,宇宙線と雷雲の相互作用や,それが雷の始まりに与える影響を検証しようとしています。

 さらに,本研究で用いたシチズンサイエンスという手法を通して,科学研究や自然現象を市民サポーター楽しむ文化も実践していきます。

 本成果は 2023 年 7 月 3 日に米国の国際学術誌『Geophysical Research Letters』に掲載されました。

 

 

 

 

図:宇宙から降り注ぐ宇宙線の空気シャワーと雷雲の相互作用で,電子が加速されてガンマ線が発生する様子と,それが雷放電のトリガーになる可能性を示す模式図(イラスト製作:ひっぐすたん)

 

 

 

 

【用語解説】

※1:シチズンサイエンス
 一般に,専門家や科学機関と共同で一般市民によって行われる科学的活動を意味する。その目的は,研究,教育,社会変革など,プロジェクトによってさまざまである。

※2:雷雲ガンマ線
 雷雲の通過時に,地上にガンマ線が 1 分程度降り注ぐ現象。専門用語では,gamma-ray glow と呼ばれる。発生領域の大きさや継続時間,雷との関係といった未解決問題が多く残されている。

 

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:Geophysical Research Letters

研究者情報:一方井 祐子

 

 

 

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