がんの標的 α 線治療の効果増大を目指したラジオセラノスティクス用薬剤を開発
-より効果的な α 線治療への応用に期待-

掲載日:2023-10-26
研究
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 金沢大学新学術創成研究機構の小川数馬教授,三代憲司准教授,大学院医薬保健学総合研究科薬学専攻/次世代精鋭人材創発プロジェクト選抜学生(博士課程 2 年)の越後拓亮,医薬保健研究域薬学系の淵上剛志准教授,宗兼将之助教,福島県立医科大学の高橋和弘教授,鷲山幸信准教授らの共同研究グループは,At-211(※1)によるがんの標的α 線治療(※2)の効果増大を目指したアルブミン結合部位(※3)含有ラジオセラノスティクス(※4)用薬剤の開発に成功しました。

 ラジオセラノスティクスとは,がんの核医学診断・核医学治療を一体化して行う手法で,ラジオセラノスティクス用薬剤は,標識する放射性核種を診断・治療用で変更することで,核医学診断にも核医学治療にも用いることのできる薬剤のことを指します。核医学治療に用いられる α 線は高い細胞傷害性を持ち,飛程が短いことから,α 線放出核種をがん細胞に選択的に送達することができれば,少ない副作用で高い治療効果を得ることができます。特に 211At は,国内での製造方法が確立している唯一の α 線放出核種であり,近年,臨床応用に向けた 211At 標識薬剤の開発が盛んに行われています。しかしながら,我々の開発してきた 211At 標識化合物は,腫瘍への集積が不十分であることや,腫瘍からの消失の速さが課題となっていました。

 今回,本研究グループでは,211At による標的 α 線治療の効果増大を目指し,血中アルブミンに高親和性のアルブミン結合部位を導入した,ラジオセラノスティクス用薬剤の開発に成功しました。マウスでの実験の結果,本薬剤は,がんへの高い集積・保持を示し,がんの増殖抑制効果を示しました。本研究をさらに発展させることにより,標的 α線治療のさらなる効果増大につながることが期待されます。

 本研究成果は,2023 年 10 月 11 日欧州核医学会が出版する国際誌『European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging』のオンライン版に掲載されました。

 

 

 

    図:開発した薬剤の構造式

     

     

    【用語解説】

    ※1: At-211(アスタチン-211)
     α 線放出核種であり,高い細胞傷害性を示すことから,強力ながん治療効果が期待されている。アスタチンには安定同位体が存在しないが,ハロゲン元素であるため,ヨウ素や臭素など他のハロゲン元素と類似した化学的性質を持ち,既知の標識法を応用できる。

    ※2:標的 α 線治療
     がん細胞を殺傷する α 線を放出する核種で,がん細胞に選択的に集積する化合物を標識された薬剤を患者さんに投与し,体内からがん細胞を殺傷する治療法。α 線は β線より飛程が短く,細胞傷害性が大きいため,少ない副作用で高い治療効果が得られる。

    ※3:アルブミン結合部位
     血中アルブミンに対し高親和性を持ち,可逆的に結合する。アルブミン結合部位を薬物に導入することで,薬物の血中半減期が延長され,薬物動態を改善し得る。

    ※4:ラジオセラノスティクス
     がんの核医学診断・核医学治療を一体化して行う手法。核医学診断は,透過性の高いγ 線を放出する放射性同位元素で標識した薬剤を投与し,体外から専用のカメラで薬剤の分布を画像化する。一方,核医学治療は細胞殺傷性が高い α 線や β線を放出する放射性同位元素で標識した薬剤を用い,体内から放射線を照射する。この際,同等の体内動態を示す診断・治療用プローブを用いれば,診断用プローブを用いた画像動態解析により,治療前に治療効果や副作用の予測が可能となる。このため,ラジオセラノスティクスは各々の患者に適切な治療を行うことが可能な個別化医療を具現化した手法であると言え,ラジオセラノスティクス用薬剤の開発が盛んに行われている。

     

     

    プレスリリースはこちら

    ジャーナル名:European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging

    研究者情報:小川 数馬

     

     

     

     

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