金沢大学子どものこころの発達研究センター/大阪大学 大学院大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科 の池田尊司准教授, 医薬保健研究域医学系の菊知充教授,子どものこころの発達研究センター(協力研究員)/福井大学医学部精神医学(客員准教授)/魚津神経サナトリウム(副院長) 高橋哲也,千葉工業大学情報科学部情報工学科(教授)/数理工学研究センター(非常勤主席研究員)/国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所児童・予防精神医学研究部(客員研究員)の信川創の共同研究グループは,脳の領野間で活動が先行または後退する現象を定量化することで、神経ネットワークにおける情報の発信および受信状態を数種類のパターン(瞬時周波数に基づくマイクロステート(IF マイクロステート))に分類できることを発見しました。そして、この IF マイクロステートの時間的変遷を解析することで、代表的な認知症であるアルツハイマー病における脳の神経ネットワーク変質とその認知機能低下が密接に関連していることを明らかにしました。
この成果は、2024 年 1 月 2 日 に英科学雑誌『Scientific Reports』にて発表されました。
図1: 本研究グループが提案したDPS(※1)による瞬時的なdFC(動的機能的結合.dynamical functional connectivityの略)の特性抽出を応用し、脳波の瞬時周波数の成分をマイクロステート解析に適用することで、アルツハイマー病の神経ネットワークのダイナミクスの新たな側面を捉えることができるという仮説の下、研究を遂行しました。
図2:アルツハイマー病の脳波における瞬時周波数に基づくマイクロステートの動的特性。
この新たに本研究グループが提案したIFマイクロステート解析をアルツハイマー病16名・健常者18名の脳波データに対して適用し、その動的特性を評価しました。その結果、アルツハイマー病では後頭先行状態の出現頻度が有意に少ないことが明らかになりました(アルツハイマー病の被験者では他のIFマイクロステートから後頭先行状態に遷移しづらく、また一度後頭先行状態に遷移しても即座他の状態に遷移してしまいます)。
【用語解説】
※1:DPS
dynamical phase synchronizationの略で,本研究グループが提案した瞬間-瞬間の領野間の神経活動の相互作用によって形成される瞬時位相差(参考文献1)(右図上段)の時系列パターンをそのパターンの複雑度(複雑性と呼ばれる)で定量化することで、dFC を新たに定義しました。この手法は、従来の dFC の解析で用いられる sliding-time-windowアプローチを用いないため、ニューロイメージングの高い時間分解能を犠牲にすることなく、瞬間-瞬間の神経相互作用を捉えることができます。この DPS は非常に高い精度で加齢による前頭野の神経ネットワークの変質を捉えることができます(右図下段)。
(参考文献) Nobukawa, S., Kikuchi, M. & Takahashi, T. Changes in functional connectivity dynamics with aging: A dynamical phase synchronization approach. Neuroimage 188, 357–368 (2019).
ジャーナル名:Scientific Reports
研究者情報:池田 尊司