非対称な二次元シートを利用したナノサイズの巻物構造の実現
〜高性能な触媒や発電デバイスへの応用に期待〜

掲載日:2024-2-9
研究 SDGs
  • 9. 産業と技術革新の基盤を作ろう
  • 17. パートナーシップで目標を達成しよう

 金沢大学,東京都立大学,産業技術総合研究所,筑波大学,東北大学,名古屋大学,北陸先端科学技術大学院大学らの研究チーム(構成員及びその所属は以下「研究チーム構成員」のとおり)は,次世代の半導体材料として注目されている遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)(※1)の単層シートを利用し,最小内径 5 nm 程度のナノサイズの巻物(スクロール)状構造の作製に成功しました。TMDは遷移金属原子がカルコゲン原子に挟まれた3原子厚のシート状物質であり,その機能や応用が近年注目を集めています。一般に,TMDは平坦な構造が安定であり,円筒などの曲がった構造は不安定な状態となります。本研究では,上部と下部のカルコゲン原子の種類を変えたヤヌス構造と呼ばれるTMDを作製し,この非対称な構造がスクロール化を促進することを見出しました。理論計算との比較より,最小内径が 5 nm 程度まで安定な構造となることを確認しました。また,スクロ ール構造に由来して軸に平行な偏光を持つ光を照射したときに発光や光散乱の強度が増大すること,表面の電気的な特性がセレン側と硫黄側で異なること,及びスクロール構造が水素発生特性を有するなどの基礎的性質を明らかにしました。

 今回得られた研究成果は,平坦な二次元シート材料を円筒状の巻物構造に変形する新たな手法を提案するものであり,ナノ構造と物性の相関関係の解明,そしてTMDの触媒特性や光電変換特性などの機能の高性能化に向けた基盤技術となることが期待されます。

 本研究成果は,2024年1月17日(米国東部時間)付けでアメリカ化学会が発行する英文誌『ACS Nano』にて発表されました。

 

【研究チーム構成員】

・東京都立大学理学研究科物理学専攻 金田賢彦(大学院生),張文金特任助教,中西勇介助教,小川朋也(大学院生),橋本和樹(大学院生),遠藤尚彦(大学院生),宮田耕充准教授
・ 産業技術総合研究所 材料・化学領域極限機能材料研究部門 劉呼上級主任研究員
・ 筑波大学数理物質系物理学域 高燕林助教,丸山実那助教、岡田晋教授
・ 東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)/大学院工学研究科電子工学専攻 中條博史研究員,青木颯馬(大学院生),加藤俊顕准教授
・ 名古屋大学工学研究科電子工学専攻 本田航大(大学院生)
・名古屋大学工学研究科電子工学専攻/金沢大学ナノ生命科学研究所 (WPI-NanoLSI) 高橋康史教授
・北陸先端科学技術大学院大学ナノマテリアル 大島義文教授、高村由起子教授

 

 

【ポイント】

・遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)のシートを巻物(スクロール)にする新たな手法を開発。
・TMDの上部と下部の組成を変えた「ヤヌス構造」が、スクロール化を促進することを発見。
・TMDの曲率や結晶の対称性などの制御を通じた触媒や光電変換機能の高性能化が期待。

 

 

図1:単層ヤヌスMoSSeを利用したナノスクロールの作製手法。

(a)単層MoSe2の構造モデル。(b)熱CVDシステムの概略図。(c)単層ヤヌスMoSSeの構造モデル。(d)水素プラズマによる硫化プロセスの概略図。(e)ヤヌスナノスクロールの構造モデル。(f)有機溶媒の滴下によるナノスクロールの作製方法の概略図。
※原論文「Nanoscrolls of Janus Monolayer Transition Metal Dichalcogenides」の図を引用・改変したものを使用しています。

 

 

図2:ナノスクロールの電子顕微鏡写真。

※原論文「Nanoscrolls of Janus Monolayer Transition Metal Dichalcogenides」の図を引用・改変したものを使用しています。

だしまきたまごのような巻物構造

 

 

【用語解説】

※1:遷移金属ダイカルコゲナイド (TMD)
 タングステンやモリブデンなどの遷移金属原子と,硫黄やセレンなどのカルコゲン原子で構成される層状物質。遷移金属とカルコゲンが 1 : 2 の比率で含まれ,組成はMX2と表される。単層は図1aのように遷移金属とカルコゲン原子が共有結合で結ばれ, 3原子厚のシート構造を持つ。近年,TMDが持つ優れた半導体特性により大きな注目を集めている。

 

 

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:ACN Nano

研究者情報:高橋 康史

 

 

 

 

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