幹細胞ソースのシングルセル解析による血管新生細胞の同定に成功!

掲載日:2024-4-8
研究

 金沢大学医薬保健研究域医学系(循環器内科)の高村雅之教授,薄井荘一郎准教授,大阪大学(PRIMe)の Vivian Hwa 教授,シンシナティ大学(米国)の井上己音研究員,Juan Gurmaches 助教の共同研究グループは,ヒト幹細胞源におけるシングルセル解析から,治療応用性を期待される血管新生細胞群を同定することに成功しました。

 カテーテル治療や外科手術でも,治療の困難な重症虚血肢(※1)や虚血性心疾患(※2)などの難治性心血管病の新規治療法として,患者自身から採取可能な幹細胞を用いた再生医療に注目が集まってきました。しかし,非常に多様な幹細胞集団のどの細胞分画(サブセット)が真に治療効果が高いのかは不明でした。

 このたび,金沢大学とシンシナティ大学の共同研究チームは,ヒトで採取可能な幹細胞ソース(骨髄・皮下脂肪・臍帯血)のシングルセル解析と,免疫不全マウスを用いた異種移植実験により,表面抗原 CD271 陽性の脂肪幹細胞(※3)が非常に高い血管新生(※4)能を有していることを見出しました。

 さらに,CD271 陽性幹細胞サブセットがどのような患者から良好に採取可能か,なぜそのような高い血管新生能を有するのか,詳細な検討を重ねました。

 これらの知見は将来,従来の治療法が無効な虚血性心血管病に活用されることが期待されます。

 本研究成果は,2023 年 12 月 20 日午後 1 時(日本時間)に学術誌『Cell Reports Medicine』にオンラインで公開され,12 月号の表紙を飾りました。

 

脂肪組織由来の幹細胞は,骨髄や臍帯と比較して高い血管新生能を持つ。

 

 

脂肪組織中の CD271 陽性細胞が優れた血管新生遺伝子プロファイリングを持つ。

 

 

インスリン抵抗性が高いドナーでは CD271 陽性細胞数が減少する。

 

重症下肢虚血に対するCD271陽性細胞細胞を用いた細胞療法は優れた治療効果を示す。

 

図:本研究の概要図
 重篤な下肢虚血に対する新たな細胞治療には,強力な血管新生促進能を持ち,細胞採取が容易な細胞集団を同定することが必要です。本研究では,ヒト皮下脂肪組織に存在する CD271 を発現する間葉系前駆細胞が強い血管新生能を持ち,重症下肢虚血の新規治療戦略として有望であることを明らかにしました。

 

 

 

【用語解説】

※1:重症虚血肢
 動脈硬化によって動脈が狭くなったり詰まったりして,下肢の血行障害を起こす閉塞性動脈硬化症の中で最も重症の病態です。

※2:虚血性心疾患
 虚血性心疾患とは,冠動脈が狭くなったり(狭心症),閉塞したりする(心筋梗塞)ことで血流障害を起こす病気です。

※3:脂肪幹細胞
 脂肪組織から採取される幹細胞で,骨芽細胞,脂肪細胞,筋細胞,軟骨細胞など,さまざまな細胞への分化能を持つとされる細胞です。

※4:血管新生
 組織の維持や増殖に必要な酸素や栄養を得るために,既存の血管から新しい血管がつくられること。

 

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:Cell Reports Medicine

研究者情報:高村 雅之

 

 

 

 

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