金沢大学ナノ生命科学研究所の華山力成教授,吉田孟史特任助教,大学院医薬保健学総合研究科医学専攻博士課程の小林久乃らの研究グループは,メイワフォーシス株式会社と共同で,疾患診断に向けた細胞外小胞エクソソームの一粒子解析法を開発しました。
エクソソームは,ほぼ全ての種類の細胞が分泌する小型(直径50~150 nm 程度)の膜小胞で,血液や尿,髄液,涙,唾液などの体液や細胞培養液中に数多く存在しています。エクソソームは,分泌細胞由来の脂質,蛋白質,RNA などを他細胞へと受け渡すことで,免疫制御や神経変性,がん進展などさまざまな生理現象や病気の発症に関与すると考えられています。このことから,エクソソームを標的にした予防,診断,治療法の開発が,大きく期待されています。
本研究グループは,サイズ排除クロマトグラフィー法あるいはエクソソーム結合分子TIM4を用いたアフィニティー精製法を用いることで,エクソソーム検出用抗体で染色したエクソソームから,未反応抗体を効率よく除去する方法を開発しました。これにより,未反応抗体に由来する擬陽性率が60%(従来手法)から5%以下に顕著に減少し,超解像フローサイトメーターを用いたエクソソームの一粒子検出が可能になりました。
高純度精製法と超解像フローサイトメーターを用いたエクソソームの一粒子検出法は,がんにおいて免疫抑制に関わるPD-L1陽性エクソソームの検出にも利用可能であり,今後がん診断やその悪性度の診断に応用されることが期待されます。
本研究成果は,2024年3月29日に英国科学誌『Scientific Reports』のオンライン版に掲載されました。
図1:高純度精製法を用いたエクソソームの一粒子検出
293T 細胞の野生株または CD63 欠損株の分泌エクソソーム(WT sEV または CD63 KO sEV)を FITC 標識 CD9 抗体および PE 標識 CD63 抗体で染色し,超遠心法(A),サイズ排除クロマトグラフィー法(B),TIM4 アフィニティー精製法(C)で精製し,超解像フローサイトメーターを用いて検出した。従来の超遠心法では CD63 KO sEVサンプルで約 60%の CD63 擬陽性 sEV が検出されるのに対し,サイズ排除クロマトグラフィー法および TIM4 アフィニティー精製法では擬陽性がほとんど検出されない。
ジャーナル名:Scientific Reports