宇宙航空研究開発機構(JAXA)の 宇宙環境利用専門委員会の公募事業に採択

掲載日:2024-6-18
研究 SDGs
  • 3. すべての人に健康と福祉を
  • 17. パートナーシップで目標を達成しよう

 金沢大学環日本海域環境研究センターの鈴木信雄教授と理工研究域生命理工学系の小林功准教授,文教大学の平山順教授,立教大学の服部淳彦特任教授と丸山雄介助教,株式会社 IDDK(以下,IDDK)を中心とした共同研究グループは,JAXA の宇宙環境利用専門委員会の公募事業(※1)に採択され,魚類のウロコ(※2)を人工衛星に搭載して,宇宙空間で誘発される骨密度低下,放射線障害,概日リズム障害を予防する治療薬の開発を目指します。

 現在,国際宇宙ステーション(ISS)には,ヒトが 1 年程度の長期滞在が可能となり,月や火星への有人探査や民間人の宇宙旅行も実現可能になってきています。しかし,滞在期間が長くなれば,宇宙環境が人体に与える影響が大きく,さまざまな部位に障害が生じることが考えられます(図 1)。そのため,その影響の評価とともに,予防・治療薬が必要となっています。そこで,2010 年実施した Fish Scales の ISS を用いた宇宙実験のサンプル調製の実績および研究成果を基にして,IDDK と連携した民間の人工衛星を用いた宇宙実験を 3 年後に計画しています。特に,われわれが注目している宇宙環境は,①微小重力,②宇宙放射線,および③地球上のものより極端に短い明暗周期です。鈴木教授を中心とする研究グループは,2010 年にスペースシャトルアトランティス号を用いて実施した宇宙実験(Fish scales)において,①および②の影響を評価し,宇宙空間における人体への影響の原因の一つとして,“メラトニンの産生量の低下”を証明しています。これより,メラトニンは①および②の影響を予防・治療できる可能性があります。メラトニンは,①および②の防御作用に加えて,生体の恒常性維持機構である概日リズムを調節するホルモンであることから,宇宙空間で乱れた③概日リズムの光応答障害もメラトニンにより治療できる可能性が高いと考えました。そこで,この光応答障害モデルのゼブラフィッシュ(※3)のウロコを用いた実験を行います。

 ISS は 2030 年に終了することがすでに決定されています。ISS に変わる宇宙環境利用として人工衛星が有望です。月や火星への人類の進出,宇宙における人類の居住を可能にするためのリスク評価およびそれを克服するため,人工衛星を用いた宇宙実験を計画し,宇宙空間で引き起こされる疾患の予防・治療薬の開発を行う予定です。

 

図1:宇宙で引き起こされる疾患の例
メラトニンは,A, C および D の疾患を予防・治療できる可能性を秘めている。

 

【用語解説】

※1:JAXA の宇宙環境利用専門委員会の公募事業
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙科学研究所(ISAS)の宇宙環境利用専門委員会が主催し,微小重力科学及び宇宙生命科学領域における『小規模計画』,「きぼう」利用フラグシップミッションなど,具体的な宇宙実験提案につながるフロントローディング研究の公募。宇宙実験前の実験機器の開発を含めた宇宙実験の準備を支援する。

※2:魚類のウロコ
 魚類のウロコには骨を作る細胞(骨芽細胞)と骨を壊す細胞(破骨細胞)が共存しており,魚は脊椎骨ではなく,ウロコからカルシウムを出し入れしている。例えば,メスのサケは,海から川に遡上するときにウロコからカルシウムを取り出して,卵にカルシウムを供給する。その時,ウロコの破骨細胞が活性化して,ウロコが溶けて小さくなることが証明されている。国際宇宙ステーションを構成する日本の宇宙実験棟「きぼう」においても,ウロコを用いた宇宙実験を実施した実績を,鈴木教授を中心とした研究グループは有する。その先行研究では,宇宙空間で,わずか 3 日間の培養で破骨細胞が活性化して,ウロコの骨吸収が引き起こされることを報告した。さらにインドール化合物の一種であるメラトニンが,ウロコの骨芽細胞で作られ,そのメラトニンが破骨細胞活性を抑制する 32 個のアミノ酸から構成されるホルモン(カルシトニン)の分泌を促すことにより,骨吸収を抑制することを見出した。

 参考:金沢大学 プレスリリース「宇宙空間で引き起こされる骨吸収がメラトニンによって抑制!」
    https://www.kanazawa-u.ac.jp/rd/69389

※3:光応答障害モデルのゼブラフィッシュ
 文教大学の平山教授は,ヒトと同じ体内時計の形成機構を持つゼブラフィッシュを用い,哺乳動物で保存されている概日リズムの光制御分子を報告している(Hirayama et al.,PNAS, 2005; Hirayama et al., PNAS, 2007; Hirayama et al., Cell Cycle, 2009)。また,これらの分子を破壊した遺伝子改変ゼブラフィッシュが概日リズムの光制御の障害を示すことを報告した(Hirayama et al., Sci. Rep., 2019)。本モデルゼブラフィッシュは,概日リズムの光応答のみが障害され,リズム形成自体は正常である点が特徴的である。

 

 

プレスリリースはこちら

研究者情報:鈴木 信雄

 

 

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