金沢大学附属病院感染制御部(腎臓・リウマチ膠原病内科学)の大島恵特任准教授,検査部の中出祐介副臨床検査技師長,医薬保健研究域医学系(腎臓・リウマチ膠原病内科学)の岩田恭宜教授,和田隆志学長らは,KAGAMI 株式会社との共同研究にて,腎臓病への臨床応用に向けて開発された D-アラニン(※1)製剤の健康成人における動態と安全性を確認しました。
慢性腎臓病(CKD,chronic kidney disease)は,腎機能の低下または蛋白尿などで示される腎障害が 3 ヶ月以上持続する疾患です。国内の CKD 患者数は約 1,330 万人(成人の8 人に 1 人)と推計され,進行すると,透析や腎移植を要する末期腎不全に至るほか,心疾患の合併や死亡のリスクとなることから,CKD の進行を予防するための治療法開発が求められています。近年の分析技術の向上により,アミノ酸は光学異性体である D 体と L 体に識別し測定することが可能となりました。本研究グループはこれまでの研究で,マウスに腎障害を起こすと,D-アミノ酸の中でも特に血液中の D-アラニン濃度が増加し,またマウスに D-アラニンを摂取させると腎機能の悪化が抑えられることを見出しました。そこで本研究では,D-アラニンの含有量が規定された経口製剤を開発し,世界で初めて腎機能の低下のない健康成人において,D-アラニンの反復摂取による体内のアミノ酸の代謝と安全性を検討しました。その結果,D-アラニンの反復摂取により,血液中の D-アラニン濃度が増加し維持されることと,腎機能への影響を含めた D-アラニン製剤の安全性を確認しました。
これらの知見は将来,アミノ酸をターゲットにした CKD の治療法開発などの臨床応用への発展が期待されます。
本研究成果は,2024 年 5 月 22 日に米国科学誌『Current Developments in Nutrition』に掲載されました。
図:D-アラニン摂取による血液中の D-アラニン濃度と腎機能の変化
【用語解説】
※1:D-アラニン
タンパク質を構成する 20 種類のアミノ酸の一つである L-アラニンの光学異性体で,腸内細菌の代謝物や発酵食品などに比較的多く含まれる成分です。これまでのアラニンの情報のほとんどは,光学異性体を識別しないアラニン,あるいは L-アラニンに基づいていました。一方で近年の分析技術の向上により,ヒトの体内にも D-アラニンが存在することが明らかになり,さまざまな生体機能との関連について研究が進められています。
ジャーナル名:Current Developments in Nutrition
研究者情報:大島 恵