金沢大学理工研究域生命理工学系の小藤累美子助教は、立教大学理学部の養老瑛美子助教、鈴木誠也氏(修士課程学生)、秋吉信宏助教、榊原恵子教授などの研究グループと共同で、ヒメツリガネゴケを用い、ゲノム編集と相同組換えによる機能欠失変異株および誘導的発現株を作製し、発生初期の生殖器官の頂端細胞を共焦点顕微鏡で観察することで、メスの発生を運命づける転写因子 PpRKD の同定に成功しました。PpRKD 遺伝子が働かないと、メスの生殖器官がつくられず、オスの生殖器官で PpRKD 遺伝子を働かせるとオスの生殖器官がメスへと性転換することが明らかになりました。
小藤助教は陸上植物の生殖進化が専門で、これまでに、本研究で用いたヒメツリガネゴケの生殖器官の発生過程や形態を解明してきました。本研究においては、研究全般への貢献のほか、特に研究成果の鍵となるメス化を証明する実験系の設計とデータ解析に貢献しました。
コケ植物が持つ有性生殖器官である配偶子嚢(オス:造精器、メス:造卵器)は、陸上植物が最初に進化させた有性生殖器官で、被子植物以外のグループに広く存在します。本研究で初めて、この生殖器官の性を直接決定する遺伝子が明らかになりました。
本研究の知見より、今後 PpRKD 遺伝子が制御する遺伝子経路や、この遺伝子が属する RWP-RK 転写因子の他の植物種における機能を調べることで、植物が最初に進化させた有性生殖システムの詳細および進化的な変遷を理解できる可能性が期待されます。
本研究成果は、2024 年 11 月 22 日付(日本時間 11 月 22 日 18 時)に英国の国際雑誌『New Phytologist』にオンライン版が掲載されました。
図1:野生株とPprkd変異株の茎頂の生殖器官
生殖器官誘導21日目のオスの造精器(▷)、メスの造卵器(▶)をそれぞれ示す。
ジャーナル名:New Phytologist
研究者情報:小藤 累美子