本学の向智里理事(研究担当),大学院医薬保健学総合研究科博士後期課程の河口康晃さん,同博士前期課程の藪下絢矢さんの研究グループは,1つのアレン(※1)の両末端に2つのアルキン(※2)を連結させたアレン−アルキン−アルキンを適切な遷移金属触媒,ロジウム(※3)と反応させることにより,直鎖状の単純な化合物から,3つの環状構造を持つ複雑な化合物を一挙に合成する新手法の開発に成功するとともに,13Cで標識した出発物質を用いた実験を行い,本反応が炭素−炭素結合の切断と再結合を経る新たな機構で進行していることを明らかにしました。また,反応終了後,同一フラスコ内に酸化剤と酸を同時に添加する単純な操作により,2つの水酸基(※4)を立体選択的に効率よく導入することにも成功しました(図1)。
遷移金属触媒を用いる環構築反応は,従来法では合成が困難であった複雑な骨格の構築を可能にする有用な手法の1つです。今回見いだした手法により,さまざまな環構造を持つ化合物を単純な出発物質から効率的に合成することが可能となりました。これらは長年,研究グループで積み上げてきた研究成果に基づき,出発物質と触媒システムの緻密な設計が行われ,従来難しいとされていた環化反応の開発に結び付いたものです。医薬品の約90%が環状構造を有していることを考えれば,本研究成果は新たな医薬品の開発や天然由来の生理活性物質合成に新たな道を拓いたと言えます。
本研究成果は『Angewandte Chemie International Edition』の『Hot Paper』に採択され,2018年2月14日にオンライン版に掲載されました。また,新反応が夜の天空から金沢駅鼓門に舞い降りてきたところをイメージしたCover Pictureが『Angewandte Chemie International Edition』の裏表紙を飾ることになりました。なお,本成果を含む河口さんの一連の研究成果が評価され,3月22日,平成29年度学位記・修了証書授与式において,学長表彰が授与されました。
図1 研究概要(各々の○は炭素を示す)
【用語解説】
※1 アレン
3個の炭素の間に2個の二重結合が連続した構造を持つ有機化合物。
※2 アルキン
2個の炭素の間に三重結合を持つ有機化合物。
※3 ロジウム
原子番号45の元素(原子記号:Rh)
※4 水酸基
アルコールや糖などに見られる化学構造で,生体内において重要な役割を担っている(構造式:OH)。
Angewandte Chemie International Edition
研究者情報:向 智里