金沢大学理工研究域電子情報通信学系の尾崎光紀准教授,総合メディア基盤センターの笠原禎也教授,理工研究域電子情報通信学系の八木谷聡教授,名古屋大学宇宙地球環境研究所の三好由純教授,塩川和夫教授,電気通信大学の細川敬祐准教授,国立極地研究所,京都大学,東北大学,JAXA宇宙科学研究所,フロリダ大学(アメリカ合衆国),国立研究開発法人情報通信研究機構,アサバスカ大学(カナダ)などの国際共同研究グループは,地上で観測されるオーロラを使い,地球近傍の宇宙で発生する電磁波コーラス(※1)と高エネルギー電子が共鳴することで生じる波動粒子相互作用(※2)発生域の形状変化の詳細を世界で初めて明らかにしました。
コーラス波動と電子が引き起こす波動粒子相互作用という物理現象は,人工衛星に搭載される電子回路の故障や宇宙飛行士の被ばくなどを引き起こす有害な放射線を発生させます。また,宇宙の高エネルギー電子を地球の大気中へ降下させ,地球の大気組成に変化をもたらす可能性も示唆されています。しかし,波動粒子相互作用は目で見ることができないため,その形状変化の詳細は半世紀以上にわたり不明のままであり,現在もなお,国際観測研究が精力的に継続されています。
本国際共同研究グループは,コーラス波動が高エネルギー電子を地球の大気中へ降下させる際に特殊なオーロラを発光させることに着目し,地球周辺の放射線の様相を調査する科学衛星「あらせ」(2016年打上げ)と地上観測網PWING(study of dynamical variation of Particles and Waves in the INner magnetosphere using Ground-based network observations)との協調観測を行いました。その結果,科学衛星「あらせ」が地球から約3万キロ離れた距離でコーラス波動を捉えたと同時に,そのコーラス波動に伴う波動粒子相互作用が引き起こした突発発光オーロラをアラスカ南部のガコナ(PWING国際拠点の一つ)で捉え,波動粒子相互作用発生域の形状変化が数十ミリ秒単位で地磁気的な南北方向に非対称に発達することを明らかにしました。
本研究成果は,オーロラが宇宙電磁環境を可視化するためのディスプレイに成りうることを間接的に示したとともに,今後,オーロラを用いた宇宙電磁環境ハザードマップを作成することにより,安心安全な宇宙利用拡大に貢献することが期待されます。
本研究成果は,2019年1月16日10時(英国時間)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。
図1. 科学衛星「あらせ」とPWING地上観測網の協調観測イメージ
科学衛星「あらせ」による宇宙での詳細観測と磁力線に沿ったオーロラ観測を通じて地上から波動粒子相互作用発生域の空間分布を捉えることができる。
図2. 科学衛星「あらせ」で観測した数百ミリ秒存続期間を示すコーラス波動のパケットと地上(ガコナ・アラスカ)で観測されたオーロラの一対一対応
宇宙で発生したコーラス波動に伴う波動粒子相互作用に関する情報が磁力線を通じて地上からオーロラとして仔細に可視化されている。
図3. 観測された突発発光オーロラの南北方向の非対称形状変化
1ピクセルの強度変化は磁力線に沿った時間変化を表し,形状変化は磁力線を横切る方向の空間変化を表す。
【用語解説】
※1 電磁波コーラス
磁力線に沿った電子のらせん運動に伴う電磁波。特に,音声に変換すると鳥のさえずりのように聞こえるものをいう。
※2 波動粒子相互作用
無衝突プラズマ中における電磁波と宇宙プラズマの相互作用のこと。電磁波を媒介して宇宙プラズマがさらに高いエネルギーへの加速や,散乱されるなどの現象が生じる。
・ 詳しくはこちら
・ 研究者情報:尾崎 光紀
・ 研究者情報:笠原 禎也
・ 研究者情報:八木谷 聡