金沢大学医薬保健研究域医学系循環器内科学の川尻剛照准教授,附属病院救急部の岡田寛史特任助教,附属病院循環器内科の中西千明助教らの研究グループは,ゲノム編集技術を用いて,難治性疾患である家族性高コレステロール血症患者の末梢血から遺伝子修正したiPS細胞を作製することに国内で初めて成功しました。
家族性高コレステロール血症は,早発性の冠動脈疾患など重篤な動脈硬化を引き起こす遺伝性の疾患で,コレステロールの細胞内取り込みに関連するLDL(※1)受容体の欠損または機能低下が原因であると知られています。両親からLDL受容体の遺伝子異常を受け継いだホモ接合体性家族性高コレステロール血症の重症患者は,幼少期から重篤な動脈硬化を来すことがあり,心臓突然死する症例も存在します。また,薬物治療のみでは治療が不十分であり,終生にわたりLDLアフェレーシス(※2)といった侵襲的治療が必要となります。LDLアフェレーシスは肉体的,時間的,経済的にも負担が大きい治療法です。
本研究グループは,ホモ接合体性の変異を持つ家族性高コレステロール血症患者の末梢血からiPS細胞を樹立し,CRISPR/Cas9システムという汎用性の高いゲノム編集法を用いて,国内では初めてLDL受容体遺伝子が修正されたiPS細胞を作製することに成功しました。さらに,この細胞から誘導した肝細胞は,LDLコレステロールの取り込み能が改善しているだけではなく,患者の末梢血単核球による免疫反応が観察されませんでした。
本研究成果は,細胞移植治療といった根治治療につながる基礎研究として多大な影響を持つ研究結果と考えられます。さらに,疾患特異的iPS細胞による疾患モデルの構築により,新たな脂質代謝改善薬の創薬スクリーニングに用いることのできる新しい評価ツールとなり得ることも期待されます。
本研究成果は,2019年3月18日(英国時間)に英国科学誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。
図1. 研究概要
ホモ接合体性の変異を持つ家族性高コレステロール血症(FH:Familial Hypercholesterolemia)患者の末梢血からiPS細胞を樹立し,ゲノム編集法の一つである「CRISPR/Cas9法」を用いてLDL受容体遺伝子が修正されたiPS細胞を作製し,肝細胞へ分化誘導したうえで,機能解析および免疫反応解析を行った。
図2. ホモ接合体性の変異を持つ家族性高コレステロール血症患者由来の遺伝子修正iPS細胞のLDL取り込み能の機能解析
緑色蛍光標識されたLDL粒子の培養細胞への取り込みを評価した。ホモ接合体性の変異を持つ家族性高コレステロール血症患者由来の遺伝子修正iPS細胞のLDL取り込み能は,野生型(正常)と同程度に回復していることが分かった。
図3. ホモ接合体性の変異を持つ家族性高コレステロール血症患者由来の遺伝子修正iPS細胞に対する免疫反応解析
ホモ接合体性の変異を持つ家族性高コレステロール血症患者から採取した末梢血単核球の野生型(正常)iPS細胞,ホモFHiPS細胞,遺伝子修正iPS細胞への免疫反応を解析したところ,遺伝子修正iPS細胞に対しては自己由来であるホモFHiPS細胞と同程度の免疫反応であることが確認され,拒絶反応を示していないことが分かった。
※1 LDL
動脈硬化の原因になる悪玉コレステロールの代表的成分。
※2 LDLアフェレーシス
血液を体内から体外へ出し,血球成分と血漿成分を分離し,血漿成分に含まれるLDLなどアポB含有リポタンパクを取り除いた後,再び体内に戻す治療法。
・ 研究者情報:川尻 剛照
・ 研究者情報:岡田 寛史
・ 研究者情報:中西 千明