がん抑制遺伝子「RB1」ががんの悪性進展を制御する新しいメカニズムを解明

掲載日:2019-6-19
研究

金沢大学がん進展制御研究所の髙橋智聡教授,金沢大学医薬保健学総合研究科博士課程4年の李鳳凱(り・ほうがい),ハーバード大学ダナ・ファーバー癌研究所の北嶋俊輔博士研究員,David A. Barbie(デイビッド・バービー)助教,金沢大学がん進展制御研究所の河野晋特任助教,向田直史教授らの国際共同研究グループは,がん抑制遺伝子であるRB1が,がんの悪性進展を制御する新しいメカニズムを解明しました。

RB1は細胞周期のG1期からS期の進行を制御することによって発がんを抑制するがん抑制遺伝子とされています。しかし,RB1の不活性化が発がんにつながるがんは網膜芽細胞腫,骨肉腫,小細胞肺がんなどに限定されており,大半のがんでは,がんが悪性化する過程においてRB1の不活性化が観察されます。本研究グループは,これまで,RB1の不活性化がどのようなメカニズムでがんの悪性化を進展させるのかを研究してきました。

本研究では,がん悪性進展モデルの解析により,RB1の不活性化が,ケモカイン(※1)の一種であるCCL2の発現を亢進することによって,種々の免疫細胞および血管細胞に働きかけ,腫瘍細胞を取り巻く環境「腫瘍微小環境」を腫瘍細胞の増殖に有利な状況へと改編することを見いだしました。また,CCL2の発現の制御に,AMPKという代謝を司るタンパク質の活性制御や脂肪酸酸化(※2)が関わっていることを明らかにしました。さらに,CCL2あるいはその受容体であるCCR2の機能を抑制することにより,RB1が不活性化したときに起こる発がんや悪性進展を抑制できることを示しました。

本研究成果は,がんの悪性進展時にRB1が不活性化するさまざまながんに対してCCL2あるいはCCR2の阻害剤が有効である可能性を示唆しており,将来の臨床応用の道を拓くことが期待されます。

本研究成果は,2019年6月12日(米国東海岸標準時間)に米国科学雑誌『Cancer Research』のオンライン版に掲載されました。


 

図1. RB1不活性化による腫瘍微小環境の変化

RB1が不活性化すると,CCL2の分泌が増加し,さまざまな免疫細胞の遊走を促進し,血管新生を促す。

 

図2. RB1の不活性化が CCL2の発現を亢進させる分子メカニズム

RB1の不活性化がAMPKのリン酸化を制御して脂肪酸酸化を亢進することにより,ミトコンドリアから産生される活性酸素量を増加させ,シグナル伝達タンパク質であるJNKの働きによってCCL2の発現を亢進する。

 

 

【用語解説】
※1 ケモカイン
白血球などの遊走を引き起こし炎症などの形成に関与する分泌タンパク質群のこと。

※2 脂肪酸酸化
脂肪酸を酸化し得られた代謝物質「アセチルCoA」をクエン酸回路に送り,エネルギーを作りだす代謝経路の一つ。

 

詳しくはこちら

Cancer Research

研究者情報:髙橋 智聡

 

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