金沢大学理工研究域生命理工学系の広瀬修助教は,点群位置合わせ問題を解くための新たなアルゴリズムを発見し,複数の典型的な点群位置合わせ問題に対して,世界最高精度かつ最小計算時間で解を見つけることに成功しました。
点群位置合わせ問題とは,それぞれが点の集まりで表現される2つの形状に対して,対応する点の位置を合わせることで,点と点の対応関係を推定する問題です。この問題は,本人認証のための3次元顔認識や,人物写真からの3次元フェイスモデルの復元など,その応用が非常に多岐にわたるため,コンピュータグラフィックスやコンピュータビジョンの分野で重要視されています。しかしながら,既存の手法の多くは自動位置合わせを行う際,予備的な位置合わせが必要であるという問題がありました。
本研究では,点群位置合わせ問題に対し,これまで試みられることのなかった,ベイズ統計学(※)に基づいた定式化を行うことで,この問題を飛躍的に軽減させることに成功しました。また,既存の点群位置合わせ手法の多くはその計算コストが非常に大きく,点群に存在する点の数が数万点規模になると,非常に多くの計算時間を必要とするという問題がありました。これらの問題に対し,本研究では一部の計算を計算効率の良い近似計算に置き換えることで,位置合わせ精度を低下させることなく飛躍的に計算速度を向上させることに成功しました。
これらの知見は将来,人物写真からの3次元顔モデルの復元や本人認証のための3次元顔認識などに利用されることが期待されます。
本研究成果は,2020年2月6日(米国東海岸標準時間)に機械学習・人工知能分野で最も権威があるとされる国際誌『IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence』に掲載されました。
図. アルマジロと呼ばれるデータに対する本手法の適用結果
赤色の形状は青色の形状を非剛体変形することで作成されており,単に形状の回転を行うだけでは位置合わせできない形状である。最も左端の図が最適化前の初期配置を表しており,自動位置合わせを行う前の予備的な位置合わせが行われていないことが分かる。以降,最適化の経過が左から右に順に示されている。本手法を適用した結果,各々の形状は10万点以上であるにもかかわらず,2分程度の計算時間で高精度の位置合わせに成功した。なお,このデータに対して現在最も高速とされる手法を利用した場合,予備的な位置合わせを行うことで同様の位置合わせを行えることを確認できたものの,計算を終えるまでに3時間程度必要であった。
図. 本手法による点群位置合わせの例
【用語解説】
※ ベイズ統計学
通常の統計学と同じように,データから何らかの推測を行うための方法論について議論する。ベイズ統計学は,その推測の際に,推測の確からしさを向上させるための知見の導入を許容するという点で,通常の統計学と異なる。
IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence
研究者情報:広瀬 修