金沢大学理工研究域数物科学系の新井豊子教授と北陸先端科学技術大学院大学らの共同研究グループは,物質を構成する個々の原子の並びを観察しながら,その結合強度を計測できる顕微メカニクス計測法を開発しました。この手法を使って,白金原子が一列に並んだ鎖状物質が強い結合強度を持つとともに,白金の塊(バルク)と比較してかなり大きく引き伸ばしても破断しないという特異な性質を持つことを発見しました。実験結果を第一原理計算で解析したところ,この鎖状物質は,エネルギーが最小になる安定構造を取っているわけではなく,その形成に必要な張力が極小な構造であることを突きとめました。この鎖状物質が持つこの特有な性質の解明は,今後ますます期待される原子スケールで制御された機能性物質の創製に指針を与える大きな成果です。
本研究成果は,2021年4月29日(米国東部標準時間)に科学雑誌『Nano Letters』のオンライン版で公開されました。
図1.
個々の原子の並びを観察しながら,原子間の結合強度を計測する顕微メカニクス計測法。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてナノ物質の構造観察をしながら,長辺振動水晶振動子(LER)を用いて物質の結合強度を計測できる。この測定によって,赤矢印で示す部位の白金原子鎖の原子間結合強度が25 N/mであることが分かった。
図2.
左上は透過型電子顕微鏡(TEM)像,左下はそのシミュレーション像である。原子4個からなる原子鎖が得られている。その観察時に測定された電気伝導(コンダクタンス量子単位G0でプロット)とばね定数の時間変化を,それぞれ右上と右下に示す。赤い矢印で示す領域は形成した原子鎖を破断することなく引っ張ることができた時間帯である。毎秒0.08 nmの速度で引っ張っており,白金原子鎖は破断なく約0.1 nm伸びた。