乳がん発症の超早期に微小環境を作り出す仕組みを分子レベルで発見

掲載日:2021-10-20
研究

金沢大学がん進展制御研究所/新学術創成研究機構の後藤典子教授と,東京医科大学,東京大学医科学研究所,国立がん研究センター,九州大学,慶應義塾大学との共同研究グループは,乳がん発症に必須の超早期の微小環境を作り出すメカニズムを発見しました。

世界中の研究者の努力によりがんの病態が解明され,新たな治療法が次々と開発されているものの,一旦発症したがんを根治することは多くの場合困難です。そのため,多くのがん患者は再発転移により命を落とします。がんの発症を予防し,超早期に治療できれば,がんを根治して死亡数を激減させられると期待されます。しかし,乳がんをはじめ多くのがんにおいて,がん発症の超早期にがん細胞が増殖を開始する分子機構が不明であるため,根治できる予防法,超早期治療法の開発に至っておりません。

本研究では,乳がん発症の超早期に,間質細胞,免疫細胞などが集まる微小環境(がん細胞を取り囲むいわゆるニッチと呼ばれる場)が作り出される仕組みを分子レベルで明らかにしました。さらにこのがん発症の超早期微小環境がFRS2β(※1)という分子によって整えられることが,がん細胞が増殖を開始するために必須であることを示しました。

これらの知見は将来,がん予防,超早期がんの診断治療に活用され,がんの撲滅に寄与することが期待されます。

本研究成果は,2021年10月18日15:00(米国東部標準時・夏時間)に米国科学アカデミー機関誌の『Proceedings of National Academy of Sciences, USA』のオンライン版に掲載されました。

 

図 FRS2βが作り出す乳がん発症の超早期の微小環境

乳がんマウスモデルMMTV-ErbB2の乳腺の超早期の微小環境に現れたがん幹細胞は増殖して腫瘍塊を作る(左)。一方,FRS2βを欠失したMMTV-ErbB2/Frs2β -/-乳腺は,超早期の微小環境が構成されず,がん幹細胞が現れても増殖しない(右)。

 

 

【用語解説】
※1  FRS2β
細胞膜に結合している細胞内アダプター分子。受容体型チロシンキナーゼHER2/ErbB2に結合して,細胞内セリンスレオニンキナーゼERKを抑制することが知られていたが,機能については不明な点が多かった。

 

 

 

詳しくはこちら

Proceedings of National Academy of Sciences, USA

研究者情報:後藤 典子

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