令和4年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を本学の教員4名が受賞しました。
<科学技術賞 研究部門>
我が国の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究又は開発を行った者を表彰
山﨑 聡 ナノマテリアル研究所 特任教授
[業績名] ダイヤモンド量子センサと電子デバイス実現のための基盤研究
超スマート社会やゼロエミッション社会実現のための科学技術開発が望まれています。新材料開発はその基盤となる重要な課題であり,特に新しい機能を発揮できる革新材料が待ち望まれています。
本研究では,革新材料としてダイヤモンドを対象としました。ダイヤモンドは,半導体としては新しい材料であり,今世紀に入ってから本格的な開発が進められています。山﨑特任教授は,ダイヤモンドが周期表における第二周期元素のみからなる初めての半導体材料であるとの観点から,ダイヤモンド半導体の成膜から新規デバイスまでの研究開発を進めてきました。多くの研究成果を挙げると共に,その過程で広く共同研究を行い,研究ネットワークを構築しました。
本研究により,ダイヤモンドのユニークな物性である長いスピン緩和時間を利用した量子磁気センサ応用,大きな電気陰性度や強固な炭素- 炭素結合エネルギーを利用した各種パワーデバイスの実現に結び付けました。
本成果は,量子科学の固体量子ビット作製技術に貢献し,また,次世代パワーデバイス開発に貢献し,それぞれ,今後訪れる超スマート社会やゼロエミッション社会に寄与することが期待されます。
<若手科学者賞>
萌芽的な研究,独創的視点に立った研究等,高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者を表彰
酒田 陽子 理工研究域物質化学系 准教授
[業績名] 速度論的制御を鍵とした機能性超分子錯体の創製に関する研究
超分子化学分野において,非共有結合性相互作用を利用した分子認識や自己集合構造の構築の研究は主として熱力学的制御に基づいており,速度論的制御に関する研究は限られていました。
酒田准教授は,速度論的制御に基づいてゲストを交換可能な,キャップ導入型のホスト・ゲストシステムの創製を行いました。また,超分子ホストの構造変化を伴う分子認識機構の速度論的解析手法を確立しました。さらに,特異な相互作用を利用したテンプレート自己集合により,準安定なベルト状自己集合型金属錯体の選択的構築にも成功しました。
本研究成果は,分子の取り込みや放出を望みのタイミングで実現する薬剤の徐放や有害物質の吸着剤開発への重要な指針を与えるほか,分子メモリー,蓄熱材料といった準安定構造を鍵とする材料創製に寄与すると期待されます。
<若手科学者賞>
萌芽的な研究,独創的視点に立った研究等,高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者を表彰
戸田 聡 ナノ生命科学研究所 助教
[業績名] 多細胞パターンのデザインを可能にする合成生物学研究
発生生物学研究の発展により,発生時に作用する遺伝子や個々の細胞のふるまいが明らかにされてきました。一方,これらの要素が絡み合う生体内の細胞間相互作用は非常に複雑で,細胞がどのように相互作用すれば複雑な組織構造を形成できるのかは未だによくわかっていません。
戸田助教は,細胞間相互作用を規定する分子群を培養細胞に導入して,培養皿上で様々な多細胞構造やパターンを形成する技術を開発しました。細胞が互いの接着の強さを制御することで,細胞を自発的に配列させる手法や,蛍光分子GFP の分泌と受容による細胞間シグナル伝達モデルを樹立して,細胞集団が自らパターンを形成し,制御する仕組みの一端を明らかにしました。
本研究成果は,細胞の挙動を操作して組織構造や機能をデザインする組織工学や,体内の必要な場所へ細胞を送り込む細胞医薬開発への応用につながると期待されます。
<若手科学者賞>
萌芽的な研究,独創的視点に立った研究等,高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者を表彰
古山 渓行 理工研究域物質化学系 准教授
[業績名] 近赤外光反応制御を実現する有機材料開発研究
近赤外光をエネルギー源とする材料は可視光では実現困難な光反応制御が期待できるため,そのニーズはエネルギー・医療等の幅広い領域に存在します。一方で,これらを実現するための基盤技術となりうる近赤外光を活用でき,改変性・光安定性に優れた有機材料の開発は確立された設計指針が未開拓であるという問題がありました。
古山准教授は,精密有機合成の手法に基づき,近赤外光と相互作用できる有機材料の指針を複数提案,実現しました。また,近赤外光反応の能動制御が必須である点に着眼し,分解反応との分離や細胞内での光反応,遮蔽条件下における選択的光反応といった近赤外光反応制御を達成しました。
本研究成果は,幅広い分野のニーズに適した色素材料を幅広く提案するものであり,近赤外光を用いた持続可能エネルギーの活用や,安全な医療技術への応用へ貢献できると期待されます。