平成20年4月1日 事務局大会議室
本日より今後6年間,学長として金沢大学の運営にあたることになりました,中村でございます。
21世紀初頭の今,大量生産・大量消費をパラダイムとする工業文明は終焉を迎えつつあり,我々の世界観のもととなる認識,思考,そして価値観が大きく転換しつつあります。この現状認識を踏まえて,大学運営にあたる所存です。教育,学問,科学において,地球との関わりにおける人間と,人間性,人間愛に強く思いを致し,教職員の和をもって,切磋琢磨したいと思います。
平成16年4月に国立大学法人に移行した本学は,金沢大学憲章に則り,第一次中期目標・中期計画を策定しました。この間,教育組織の改革やキャンパスの移転整備などを,順調に実施してきました。これからは,第一次中期目標・計画の総仕上げと,平成二十二年から始まる次の中期目標・計画に向けて,大学運営を進めることになります。
その柱となるのは,一つには,本日から始まる,新たな教育組織です。
我が国でも例を見ない教育組織の先駆的な改革である,「3学域・16学類」の実質化を図り,新しい総合大学として発展させることです。
教育の中核は,自らの主体的な生き方を創造できる能力の育成であり,これは,深い教養を自ら育むことにより達成されるものと信じています。学生は,人間と歴史,文化と科学について広く学び,深く思索することにより教養を深め,教員は人間性あふれる教育をすることにより,教養の涵養を助けます。これが,全ての専門教育の基礎となるものと確信しています。
二つには,国立大学法人化以後,国公私立大学が法人という同じ土俵に立ってしのぎを削っています。このような状況下で,これまで計画的に築いてきた国立大学の使命と責務を,如何にして維持・発展させていくかが肝要です。
「3学域・16学類」の実質化とともに,研究領域における「強み」を更に伸ばし,「研究の拠点化」を図り,そしてそのことにより萌芽的研究も支援・強化し,研究全体の浮場を目指します。また,「教育重視の研究大学」として,優秀な教職員の確保と,その資質の向上を目指した研鑽により,「教育研究の質の向上」と,それに基づく「より質の高い学生・研究者の輩出」という「正のスパイラル」を築いていきます。
この目的に向かって,私は5つの柱からなるビジョンを掲げました。それは,「我が国ベスト10大学を目指すこと」,「次世代の優秀な人材を育成すること」,「世界的な教育研究の拠点となること」,「リージョナルセンターとして機能すること」,そして「法人としての自主的・自律的な運営を行うこと」です。
教育と研究へのビジョンを数値化したものが,10年後日本のベスト10大学になるという目標です。ベスト10とは,大学評価の種々の指標がベスト10に入り,皆さんがベスト10と実感できる大学になることです。最も肝要なことは,目標に向けて,自分たちの大学は自分たちで造るという気概を持つことです。これは,情報を共有化し,全ての教職員が互いに尊敬しあう意識を持って,建設的議論を拡大すること,そして適切な組織体制の構築と人事の運営を行なうこと無くしては達成できません。皆さんの自律的な参加と協力を仰ぐ次第であります。
金沢大学があなたのために何をしてくれるかではなく,あなたが金沢大学のために何ができるか であります。
さて,大学は,地域社会と離れては生きていけません。そのためには,互いの立場を尊重し,その存在価値を認め合う,イコール・パートナーシップを常に心に持って,医療を含めた地域貢献を展開することが大切です。これを胸に刻み,地域と世界に開かれた大学として,一層の人的交流,教育交流,研究交流を推進して参ります。
これらの基礎的姿勢のもと,総合大学として,リージョナルセンターとしての地域中核的役割を果たすと共に,ナショナルセンターとなるべく,私に託された6年間を邁進する所存です。
日本国内3番目に長い歴史を有する我が金沢大学は,また,3番目に広いキャンパスを有し,そこには素晴らしい教育研究環境が整備されました。そして新たに始まる「3学域・16学類」における教育からは,広く世界が必要とする人材,課題の山積する社会を自ら改革する優れた人材が育っていくことでしょう。また,地域がバックアップする中で世界的教育研究拠点が形成され,萌芽的研究が光り輝き,さらには企業との共同研究が生き生きと展開されていくことにもなるでしょう。
以上述べました中村の抱負を実現していくための歩みを,皆さんと共に進めて参りたいと思っています。
平成20年4月1日
金沢大学長 中村 信一
- 所信表明(動画)[学内]