年も押し迫った12月,本学の角間キャンパスと京都市にある龍谷大学の深草キャンパスをテレビ会議で結び,朝日パートナーズシンポジウム「人をつなぐ,未来をひらく,大学の森」が開催された。河合雅雄氏は,基調講演「森のあそびのすすめ」で“里山は人に役立ち持続的に使われる自然であり,このような自然とつき合うことで文化や教育が育まれる”とし,大学が里山を持つ意義を強調された。パネル討論「里山をいまに生かす」では,本学教授の中村浩二氏らが参加し,「角間の里山」と「龍谷の森」が紹介され,地域おこしの活用策や森の保全について討論された。
角間キャンパスは200haと広大であり,里山はそのうち70haを占める。生棲する動植物は多く,それらについては,造成前から現在に至るまで継続的に調査を実施している。アベマキ,コナラなど576種の植物,キツネやテンなどの21種の哺乳動物,ワシやタカなど72種の鳥類,10種の爬虫類,モリアオガエルなどの9種の両棲類,さらには千種を超える昆虫類などが,絶滅危惧種や貴重種を含めて確認されている。まさに角間は生物多様性に富んだ里山である。
本学はこのように自然豊かなフィールドを教育・研究に幅広く利用するため,「角間里山自然学校」を1999年に発足させ,「角間の里山メイト」に登録する約400名のサポーターが,子供達の自然観察や体験学習,大学生の授業,生態系の調査研究から棚田の復元や竹林の整備などの里山保全まで,様々な活動を支えている。
そして,このような活動の拠点として,創立五十周年記念館「角間の里」が4月に完成した。旧白峰村の好意により,築280年の古民家である山口新十郎家を譲り受け,加賀藩以来の宮大工である松浦建設によって移築されたものである。
記念館の名称「角間の里」は全国公募によるが,里は中国の周代における25個の集落の単位である。村人は里を中心に作物を栽培し,近くの山でクヌギ,シイ,ナラなどの燃料を手に入れ生活したことであろう。そして,このような里には社という広場があり,そこで“祭礼”が営まれ五穀豊穣を祝った。社のもとに人が出会うことでコミュニティが形成され文化が生まれた訳で,これが「社会」の語源になっている。本学が移転するまでは,里山と共存し文化を発信していた角間の村だが,これからは学びの場として,学生,教師,さらには県民・市民が集い,新たな知と人材を創り出すことになる。
金沢大学は,1862年の加賀藩種痘所を起源とした新制の総合大学として1949年に設立され,以来,我国の高等教育と学術研究に多大な貢献をして来たが,2004年に国立大学法人となり,角間と宝町のキャンパスのもとで新たな出発をしたところである。一方,龍谷大学は1639年の本願寺の学寮を起源とし,由緒ある深草の地で仏教大学として歴史を刻み今日に至っている。
このように両大学はこれまで,人材の育成と学術文化の発展を通して時代を継いで来たが,これからは自然との共生や調和の視点を前面に据えようとしている。大学は社会における知の拠点であるが故に,人類に今問われている“将来の世代と地球に対する自覚”に敏感でなければならない。「里山を今に生かす」ことはそのための一歩であり,それは「自然とつき合う教育」から始めることとしたい。
(本学事務系職員退職者の会「健寿会」の会報「健寿」第26号「特別寄稿」から転載)