金沢大学は,1862年の加賀藩種痘所を源流とし,1949年に当時の高等学校群を統合した新制の総合大学として設立された。以来,時代の要請と学問の深化拡大を受けて,学部や学科の改組充実と大学院研究科の設置を進め,日本海側にある我が国の基幹大学として,高等教育と学術研究に大きく貢献してきた。そして,55年の歴史を刻んだ今,設置者を国から自らの大学に変え,国立大学法人金沢大学として新たな一歩を踏み出したところである。
グローバル化が進む国際社会にあって,人材の育成と知の創造を責務とする大学には,社会における知の拠点としての存在が改めて問い質されている。本学は法人化にあたり,“地域と世界に開かれた教育重視の研究大学”を位置づけの基本として金沢大学憲章を制定したが,そこでは“社会のための大学”という古くて新しい原点に立ち返っている。
法人化のキーワードは,自主自律,個性化,競争である。どのような学生を受け入れ,教育し,社会に輩出するのか。長期的な基礎研究と短期的で実践につながる研究を,どのように共存させて進めるのか。大学法人は民間的な経営視点をもって運営しつつも,必ずしも社会におもねることなくこれらの課題に応えねばならない。総合大学の個性の一つに多様性があるが,この多様性を発展的に維持するうえでの健全な競争環境こそ,公共性の高い教育研究を預かる本学に問われていると言えよう。