平成15年度 金沢大学学位記・修了証書授与式学長告辞

掲載日:2004-3-22
学長メッセージ

平成16年3月22日 金沢市観光会館

本日ここに,平成15年度金沢大学学位記・修了証書授与式が挙行されましたこと誠に慶賀に存じます。ただいま学部卒業生 1,838名,大学院修了生719名,専攻科16名,別科23名の方々に学位記及び修了証書を授与いたしました。卒業生,修了生の皆さんおめでとうございます。心からお祝を申し上げます。ご家族・保護者の方々には,これまでのご苦労に感謝し,併せてお喜びを申し上げます。

金沢大学は1949年に新制の総合大学として設立され,これまで日本海側にある我が国の基幹大学として,高等教育と学術研究の発展に大きく貢献してまいりました。そして,諸君を送り出した後,この4月から国立大学法人に移行いたします。

大学の法人化は時代の変化を受けて設置形態を大きく変更するものです。国立大学法人金沢大学は,大学が存在理由としている“社会のための大学”を原点にスタートしようとしています。諸君におかれては,このような母校とともに新たな一歩を踏み出していただきたいと存じます。

近年の科学技術の急速な発展は,地球の資源と環境に限界のあることを認識させ,その一方で社会の情報化と国際化は,経済そして政治においてさえも,国家の枠を越えた地球規模での活動を促しています。

世界の国々は,このようなグローバル化の流れにあって,これまで歩んできたトランス・ナショナルな国際協調の路線と,国益を追求するネオ・ナショナリズムとの間で大きく揺れ動いています。

そして国民の意識が国から地球人の意識へと高まるにつれ,また企業の自由競争が市場原理に基づいて活発化するにつれ,国のジレンマは一層深刻で複雑なものとなっているように思われます。

9.11テロ事件,そしてアフガン攻撃に続くイラク戦争は,その典型的な事例でありましょう。開戦後1年を経過したイラクには,治安維持のためいまだに 14万人を越える連合軍が駐留していますが,テロの脅威はなくなってはいません。イラクは今,民主化に向けた苦難の道を歩んでいると言えましょう。

そしてそこには,アメリカのナショナリズムと国際協調を唱える国との対立の構図が,地球温暖化や核実験の禁止に見られたと同様に,浮き彫りとなっています。我が国の自衛隊派遣がアメリカ追従であるかどうかは別として,イラク復興は国際協調をもって果たさねばなりません。

非人道的な戦争行為や人類の共有財産である地球環境の破壊に,ナショナリズムの大義はありません。

しかし,グローバル市場に国益を求めるナショナリズムは必ずしも否定できるものでもありません。企業はものづくりの競争のために生産拠点を海外に移し,その一方で安価な食料を求めて海外市場を展開しています。

牛海綿状脳症(BSE)の脅威に備えた全頭調査も,鳥インフルエンザの危機を回避するための大量処分も,そして拡散するテロ防止に張られた天網も,地産地消を離れたグローバル化の宿命であり,今や地球上のどこかで起きた小さな問題が地球全体を揺るがす時代であると言えましょう。

諸君はこのような時期に社会人となり,市民として職業人として国際社会の中で行動しなければなりません。大学という学問の場で専門を身につけ,物事を総合的に捉えるアプローチの仕方を学びました。

これから諸君が立ち向かうのは多様でかつダイナミックに変化する実践の場であり,そこではより広範な知識,より高い総合力,より速やかな判断と行動が求められることでしょう。そしていろいろな場で,市民であることと企業人であることに,また国家の一員であることと地球市民であることに,齟齬と矛盾を感ずることでしょう。

しかし,大切なことは自分の考え方に基づく自らの行動であり,それは時代の流れと社会全体を大きく見据えたものでなければなりません。グローバル化時代における国際協調には,多様な国々の競争的共生が前提となるはずです。そのためには個性に裏付けられ,自主自律に立った国家の主張こそ大切と言えましょう。

我が国は今,教育をはじめとした様々な改革に取り組んでいますが,必ずしも将来に向けた確かなビジョンが見えていません。それだけに国民の間では閉塞感さえ漂いはじめているように思えます。

しかし,これは国のリーダーシップばかりではなく,国民全体の問題として捉えるべきでしょう。国が世論をつくるのではなく,世論が国を動かすためには初めに一人一人の行動がなければなりません。

一人一人の行動はそのまま全体像にはなり得ませんが,そこには少なくとも変化する自分があるはずです。諸君は卒業にあたり,地球人として高邁な意識を持ち,国を拓いていくのは自分自身であることを自覚していただきたいと存じます。

角間キャンパスには春の息吹が感じられます。諸君におかれては,自然に恵まれた金沢での学生生活を胸に刻み,世界に向けて大きくはばたかれますよう。

金沢大学は国立大学法人として,地域に根ざし世界に開かれた大学へと邁進します。個性を磨くために,再び母校に戻られることがあれば幸です。諸君の健闘を称え,さらなる発展を祈念し告辞といたします。

平成16年3月22日
金沢大学長 林 勇二郎

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