このたびの令和6年能登半島地震により、亡くなられた方々に哀悼の意を表するとともに、被災された全ての方々に、心よりお見舞いを申し上げます。このような大災害に直面し、いまなお被災者の皆様は元の生活には程遠い尋常ならざる事態が続いております。被害を受けられた皆様のご回復と被災地の1日も早い復旧・復興を心よりお祈り申し上げます。
このような状況のもと、令和5年度学位記・修了証書授与式を挙行できますことをありがたく思います。卒業生、修了生の皆さん、おめでとうございます。心よりお祝いを申し上げます。ご家族の皆様にも、これまでのご理解とご支援に対して感謝するとともに、心よりお慶びを申し上げます。皆さんは新型コロナウィルス感染症の最も拡大した時期に学生生活を過ごされました。特に令和2年度は全国の多くの大学と同様に本学でも入学宣誓式の中止を余儀なくされました。数ヶ月にわたり、キャンパスへの立ち入りの制限という措置が行われました。今回、卒業・修了まで僅かとなった年明け早々に能登半島地震に見舞われました。このような状況下でも、皆さんは自己鍛錬と学びを継続し、人間力を高め、学識を深めながら、所期の目標を完遂しました。本日、無事に学位記あるいは修了証書を手にされましたことに、心からの敬意と祝意を表します。今日に至るまで、志をともにした友人、ご家族、恩師の温かいご指導や励ましも大きな力になったはずです。改めて心に刻み、これまでのお力添えとお導きに感謝をする良い機会です。
今回の災害により、半島での地震という地政学的な観点に加えて、超高齢社会・少子化とそれに伴うコミュニティ、社会インフラ、なりわい、医療や教育、有形・無形文化財などに関する多くの課題が浮き彫りになりました。地球規模では、長引く複数の国際紛争、貧困、飢餓・食糧、健康・福祉、エネルギー、気候変動、環境など課題が多くあります。AIやデジタルトランスフォーメーション、技術革新による社会変革も進んでいます。今回の災害のように、様々な課題が急に顕在化することもあることを実感したと思います。皆さんは金沢大学での学びを通して、社会課題の解決における理念や大義、人の叡智など実に多くのことを考え、行動したのではないでしょうか。令和5年5月15日、金沢大学角間キャンパスにおいて、G7富山・金沢教育大臣会合エクスカーションを行いました。G7各国の大臣、国際機関の代表者が本学を訪れ、学生、教員と直接対話する大変貴重な機会でした。このように実体験を伴う学びは将来のかけがえのない財産、道標になっていくはずです。さらに、現在ならびに未来の課題を自ら探求し、解決できるようあらゆる準備が今後も必要です。これこそまさに金沢大学が掲げる「未来知」です。「未来知」とは、現在、ならびに未来の課題を探求し、克服するための知恵です。未来知により未来の価値を創造することにつながります。社会構造や価値観が大きく様変わりしている今こそ、金沢大学で学び続け、得られた「未来知」により、課題の克服とともに、社会の新たな価値を創造してください。これからの日本、世界の新たな社会を築くのは皆さんです。皆さんが未来の社会を力強く担っていくことを確信しています。
金沢大学では、令和4年5月に示した金沢大学未来ビジョン『志』のもと、本学があるべき姿である国際的な研究大学というビジョンを掲げています。金沢大学憲章に掲げる基本理念に立脚し、オール金沢大学で「未来知」により社会に貢献する、という「志」です。江戸時代の長州、現在の山口県で松下村塾を主宰した吉田松陰の言葉に「志を立てて以て万事の源と為(な)す」とあります。すべての実践は志を立てることから始まるという意味です。これから皆さんは社会人、あるいは大学院生としての新たな生活が始まります。それぞれが「志」を新たに立てる、再確認する絶好の機会です。また、吉田松陰は「夢なき者に成功なし」との言葉も残しています。母校での学びを胸に刻み、金沢大学の卒業者、修了者として、誇りと自信をもって躍動的に夢、目標に向かい、あらゆる世界で飛躍してください。さらに、今回の地震に見舞われた能登半島にも思いをはせ、被災地の復興、再建、持続的な発展に関心を持ち続けて欲しいと思います。今後、被災地の再建・復興には大きな理念のもと、持続可能性を考慮した息の長い取り組みが必要です。今後も金沢大学は国際的な研究大学というあるべき姿にむけて、大学の総合力の一層の向上をはかってまいります。そのなかで、被災地に心をあわせながら、震災からの復興・再建にも全力で取り組み、総合研究大学として世界・地域に貢献する所存です。
これから皆さんは急速に変革する社会に新たに船出します。そのために私から3つの言葉を餞としてお贈りしたいと思います。
まず、第一は、「人として成長する」ことです。そのために、人との出会いを大切にし、人間力を磨くことです。
私自身、人こそ宝、財産である、人材の「材」は財産の「財」、と考えています。人は人から多くのことを学びます。熱意を持つ人との出会いは重要です。皆さんの前途に広がる明るい未来において、巡り会う素晴らしい人の「考え方」、「知」、「情熱」に広く触れてください。ぜひ、誠実な関心をもって、さまざまな方とコミュニケーションをとってみてください。そのためにも相手とともに、自分自身にも関心を持つことが重要です。その出会いを通して得た学びを生かし、自分自身の資質や能力を磨き続けてください。生きる姿勢や考え方を見つめることで、必ず得られることがあると信じます。皆さんが人間力を磨き続け、人として大きく成長し、世界のリーダーとして活躍することを心より期待します。
第二は、「課題を探求し、克服にむけ挑戦し続ける」ことです。そのためにも複合的な視点、広い視野、高い視座をもち、全体像を俯瞰してください。そして、まず第一歩を踏み出すことです。まさに、着眼大局、着手小局です。
皆さんはこれから正解や模範解答が用意されていない実社会で生涯にわたる新たな学びが始まります。自分で課題を見出し、最適解を考え、課題を克服していくのは皆さん自身です。皆さんが学んだ金沢大学は総合大学です。総合大学ならではの様々な考え方をもつ学生、教員との出会いがあり、その良さを享受したと思います。今後、我々が遭遇する現在、未来の課題は、誰もが経験したことがない要素を多く含んでいます。金沢大学未来ビジョン『志』で示している、現在、ならびに未来の課題を探求し、克服する知恵「未来知」が必要となるでしょう。その際、複合的な視点、広い視野、高い視座をもって全体像を俯瞰してほしいと思います。そのうえで、失敗をも恐れずに様々な課題に果敢に挑戦してみてください。成功への情熱を持ち続けることです。将来、あるべき姿を明確にし、それに対して何をなすべきか、何を行うか、考え続けてください。目標の達成には、多面的なアプローチが重要です。皆さんが、様々な課題に果敢に挑戦し、イノベーションを創出することで、国内外の社会の発展に貢献していくことを心より願っています。
第三は、「生涯にわたり学び続けること」です。たゆまぬ自己鍛錬を継続することです。
詩人であるサムエル・ウルマンに「青春」の詩があります。このなかで、青春とは人生の或る期間を言うのではなく心の様相を言う。理想を失う時に初めて老いると記されています。希望を胸に、将来の大きな目標にむかって、ぜひたゆまぬ自己鍛錬を行い、理想をもって生涯にわたり学び続けてください。齢を重ねても「自分と未来は変えられる」と私は信じています。
改めまして、皆さんは金沢大学の卒業者、修了者、社会の一員としての自覚、誇りを持って成長してください。また、生涯にわたり幸せな人生に恵まれ、実りある素晴らしい日々を過ごしてほしいと思います。皆さんが「志」をたて、「金沢大学ブランド人材」として、国内外の舞台で活躍すること、社会に貢献されることを強く祈念し、告辞とします。
本日は誠におめでとうございます。
令和6年3月22日
金沢大学長 和田 隆志