令和3年 学長年頭あいさつ

掲載日:2021-1-4
学長メッセージ

皆さん,新年明けましておめでとうございます。今年もどうぞ宜しくお願いいたします。この年末からの寒波襲来により積雪があり,久しぶりに北陸らしい雪に覆われた年始を迎えました。コロナ流行地域からの帰省や初詣を控えた家族が多かったようですが,皆さまいかがお過ごしでしたでしょうか。新しい年の年頭にあたり,ごあいさつを申し上げます。

昨年一年間はコロナ禍への危機管理上の対応のため,ほとんどの行事が規模縮小または中止,延期を余儀なくされ,大学の授業も4月以来,遠隔あるいは遠隔と対面のブレンド型とするようすべての教員にお願いし,随分とご苦労をおかけしましたが,まだまだその状況は続きそうです。遠隔授業を経験してみて,オンデマンドや同時配信のメリット,デメリットを全教員が肌で体感し,確認されたことと思います。ポストコロナでは,もう決して元の対面だけの世界に戻ることはないでしょうし,また戻ってはいけないと思っています。今,世界中が今回の経験を糧に,ハイブリッド型の新しい教育方法を模索し始めています。しかし目前の現実は,第3波の感染ピークにより首都圏をはじめ感染蔓延に歯止めがかからず,この年末年始の休業中に本学学生の罹患者も絶えず,来週末に予定している大学入学共通テストに備え,本日以降の授業も急きょ,対面を中止して遠隔とせざるを得ない地区が大半となっています。ワクチン接種は早くても3月以降と目されておりますが,願わくば5月のゴールデンウイークごろまでには終息の方向に向かうことを期待しております。そして,海外大学との交流,学生の海外派遣をできるだけ早く再開させたいものであります。

さて,この4月から始まる,私の学長職の第3期目最後の1年間は,YAMAZAKIプランの総仕上げの年と位置付けます。この一年間を振り返ってみますと,教育改革では学士課程教育の組織改編の学年進行を着実に進めていただいたと同時に,大学院の高度化の一環として新学術創成研究科融合科学共同専攻博士後期課程設置,ナノ生命科学専攻の博士前期・博士後期課程同時設置が実現し,昨年4月に新一年生を迎え入れました。また,一昨年に採択された「ナノ精密医学・理工学卓越大学院プログラム」が学生を迎え入れて本格稼働し始めました。ラボローテーションをはじめ複数分野横断型の異分野融合により,社会での活躍が期待される博士人材の育成に注力し,大学院教育のフラッグシップとして全学の大学院改革を先導してくれることを大いに期待しております。

文部科学省の競争的資金獲得では,知識集約型社会を支える人材育成事業に採択され,幹事校となり,採択プログラム「融合した専門知と鋭敏な飛躍知を持つ社会変革先導人材育成」では,国際基幹教育院が実施する金沢大学<グローバル>スタンダード(KUGS)の5つの基準に加え,新たに第6群を設け,文理融合型のSTEAM教育を開始します。融合学域先導学類のアントレプレナーシップ中心の教育をスタートさせるとともに,全学的に先導STEAM人材育成プログラムを実施してまいります。

一方,先端研究基盤共用促進事業(コアファシリティ構築支援プログラム)に採択された「大学の経営戦略を支えるコアファシリティの統合的整備モデル」では,研究設備共用システムのさらなる整備と,卓越した技術職員・高度なURAの育成・認定を目指します。そして産学官金の連携によって研究力強化を図り,その成果を北陸地区を中心として全国に普及モデルとして展開してまいります。

また,国立大学改革強化推進補助金の国立大学経営改革促進事業では,指定国立大学を目指してナノ生命科学研究所をはじめ研究所群の設立を加速して金沢大学の研究水準を世界レベルに引き上げ,その研究成果をベースに産学連携活動を強化,資金の還流をもって経営力強化を加速させたいと考えております。

施設整備の面では,ナノ生命科学研究所棟が昨秋に完成し,関係者の移転を終えた12月に各界からの来賓をお招きして竣工式典を挙行することができました。ご尽力いただいた関係各位に改めて感謝申し上げます。さらには株式会社ダイセルからの資金提供により新産学協働研究所(仮称)を自然科学3号館の続きにCブロックとして整備することが確定し,現在実施設計を進めております。令和4年秋の完成を目指して本年4月に着工できる運びとなりました。

次に令和3年度の取り組みについてですが,融合学域先導学類の設置認可を受け第4学域をいよいよスタートさせます。また創薬科学類の薬学類への定員移行,研究者養成のための新学類「医薬科学類」も併せてスタートさせます。さらに,令和4年度以降の融合学域第2,第3の学類新設計画として,観光デザイン学類(仮称)と人間拡張ヒューマン・オーグメンテーション(HA)を中心とする文理融合型の学類の設置に向けた諸準備を,またそれらの組織整備に合わせた教育研究環境整備も加速させたいと考えております。

さらに高大接続特別入試の実施にも注力します。今年はいよいよこれまで準備してきた入試改革がその正念場を迎えますが,具体的かつ着実な成果の創出に向けて,教職員の皆さまと一丸となってさらに取り組んでまいりますのでどうぞ宜しくお願いいたします。

加えて令和4年度から始まる第4期中期目標・中期計画の策定を今後急がねばなりません。大学を取り巻く多様なステークホルダーとの相互理解・信頼を築く「エンゲージメント型の大学経営」を基盤に据えながら,一昨年度末に大学改革推進委員会を中心に全学的に議論を深めた金沢大学の将来構想を踏まえた第4期の取り組みの骨子,種々の教育改革や組織再編,研究力強化,国際化,先進医療と地域貢献,そして人事・ガバナンス改革など全ての項目において,改革をさらに進めるための中期計画を6月中を目途に策定いたします。それらの詳細を詰め,金沢大学のさらなる発展のための改革と挑戦を着実に進めるための方向付けを明確にいたします。

一方,コロナ禍によって国際化,グローバル人材の育成活動が一変しました。スーパーグローバル大学創成支援事業(SGU)は8年目を迎えますが,SGUで実施する各種プロジェクトや大学の世界展開力強化事業ロシアプログラム等では,実質的な外国人留学生の受け入れや日本人学生の海外派遣が全くストップしてしまいました。しかし,日本にいながら相手大学の現地の学生とのWebによる交流などが,予想に反して一定の効果があることが判明したのも,この異常事態下での一年間の取り組みの予想し得なかった成果でした。授業のハイブリッド化と同様,もう元に戻ることはできないですし,単にコロナ以前に戻ってはいけません。ウィズコロナ,ポストコロナを踏まえた新しいタイプ,方式の留学生受け入れ,新しいタイプの留学派遣プログラムの開発は待ったなしで迫りくると予想されます。関係者と共に最大限の努力を傾注いたします。また信州大学と共同実施している留学生就職促進プログラムにも引き続き,注力してまいります。

コロナ禍での対応で今一つ忘れてはならないのが,在宅勤務の経験です。本学ではロックダウンは避けられましたが,これから先も感染状況の悪化により,本学の教育研究における活動指針レベルの引き上げが必要な事態が現実のものとなる心配は払拭できません。働き方改革の推進と併せて我々の働き方をドラスティックに変更する絶好の機会でもあります。皆さま方との議論を深め,一定の改革の方向性を定めたいと考えております。

さて,年末に閣議決定された令和3年度予算の,本学に関する詳細はいまだ判明しておりませんが,昨年夏に申請した本学の5つの重点戦略に沿った機能強化を実現するための概算要求のうち,高度モビリティ研究所の設置が認められた模様です。また施設整備の要求は空調・電気設備更新,新産学協働研究所(仮称)のライフライン整備,能登海洋水産センター実験研究棟改修など要求したほとんどの事項が満額で認められた模様です。附属病院の新診療棟の建設にも着手できそうです。一方,機能強化の分類別の評価に基づく配分では,さらに総額が1,200億円に積み上がり,昨年度とほぼ同じ指標で減額・増額幅も±20%に拡大されましたので,本学はさらに苦しい対応に迫られそうです。この困難な状況は,全ての教職員の皆さまの努力と英知を結集することでしか克服できないものです。皆さんと共に覚悟を新たにし,取り組んでまいりたいと思います。

研究成果の社会実装と地域社会,国際社会への貢献では,引き続き地域イノベーションエコシステムの構築に努めてまいります。先端科学・社会共創推進機構をベースに,民間との共同研究講座の設置,社会実装に焦点を当てた研究分野の育成,研究成果の創出を加速し,民間や地域自治体・諸団体からの研究開発資金導入の3倍以上拡大という目標を達成するために,引き続き企業群等との新しい関係構築に努めてまいります。

また,地域貢献の重要な一翼を担う附属病院は,昨年度から引き続きコロナ感染症患者の受け入れで大変なご苦労をおかけしております。重症患者を中心とする罹患者の治療に関係者の努力が続けられております。じわじわと感染者数が増加傾向にある石川県にありながら,院内感染によるクラスター発生など最悪の事態を招くことなく,年末年始を越しました。改めて関係者の皆さまのご努力に感謝申し上げます。受け入れ患者数が激減する中,このままの状況が推移すれば政府からの支援により経営面では何とか耐えうる程度の赤字幅で今年度会計を締められそうです。

新たに迎えた令和3年は,ウィズコロナ,ポストコロナで,社会が大きく変革を遂げる激動の年となることは確実です。本学にとっても,このピンチをチャンスに変える好機ととらえ,デジタル・トランスフォーメイション(DX)を武器に,大きな飛躍を目指す基盤をさらに強固にする年であり,それと同時にこれまで取り組んできた挑戦,そして改革を,新たな軌道に乗せる総仕上げの年と位置付けます。今こそ,日本のイノベーションを大学から引き起こし,日本経済の再生,国際競争力の復活の契機としましょう。皆さんの力を結集し,この激動の一年を乗り切り,「皆が頑張る,地域に愛され,世界に輝く金沢大学」を教職員一人一人の努力で実現することこそが,この激動期を乗り越える原動力である,私はそう信じております。皆さん,今年も一年,一緒に頑張りましょう。

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