2012年1月4日 大会議室
新年おめでとうございます。
「木の葉なきむなしき枝に年暮れて又めぐむべき春ぞ近づく」。
これは藤原定家の曾孫,京極為兼が詠ったものです。「一見枯れたかのような冬の木だが,そのような枝にも再び春は巡ってくる」という意味ですが,そこに込められた寓意は,「冬枯れの寒々とした風景のように,今は落ち込んでいようとも,年が変わると希望に満ちた春がきっと来る」ということでありましょう。
昨年は,3月11日に起きた東日本大震災からの復興に向けての一年でした。津波の被害が岩手県で最大だった陸前高田市,この暮れに私も訪れたのですが,そこでは復興計画が具体化されていました。津波にも倒れなかった樹齢250年を越える老松,「奇跡の一本松」は津波の後枯れはしたものの,その枝は4本の接ぎ木として,老木の命は引き継がれています。一日も早く,「又めぐむべき春」が近づくことを願っております。
さて,国立大学法人を取り巻く財務環境はこれまでになく厳しいものです。しかし,このような今こそ,変わるチャンスととらえています。大学はなによりもそこに働く人により支えられています。その一方を担う職員の皆さんには,是非,金沢大学の変革に自律的に参画して頂きたく存じます。そこで何よりも大切なことは,自分のポジショニングができるか否かにあります。自分は何をなすべきか,こういうことに対して働ける,また働きたい。このようなポジショニングができる能力は,日々磨くものですが,一人ひとりの職員が自らを磨くならば,大学は大いに変わっていくことが期待できます。
いまひとつ,不安定な時代,改革の時代にあっては,自らの意識を前例から解放することが必要です。15世紀の「応仁の乱」の西軍総大将,山名宗全の言葉に,「およそ例という文字をば,尚後は時という文字にかへて御心あるべし」とあります。「過去の例にとらわれずに,その時に応じた対応をすべし」ということであります。時に応じて前例にとらわれずに敢然と立ち向かって頂きたく存じます。
本年の大きな事業について少し申し上げます。3月には,学域学類制の最初の学生を送り出します。羅針盤のない混沌とした社会状況の中で,自立した有為な人材の育成を目指して,学域学類制は発足しました。第一期生が今後社会でどのように活躍し,学域学類制がどのような評価を受けるかは,今から楽しみです。この数年は金沢大学の将来における教育評価がなされる上で,非常に大切な年月となります。
5月には創基150年の祝典を開きます。昨年11月には,「金沢大学発祥の地」の石碑を彦三種痘所跡に据えました。これで,金沢大学濫觴の証を後世に向けて記し続けることができます。また,アジア5大学学長フォーラムを能楽堂で開き,その挨拶の最後で,私は次のように申しました。「種痘所が開設された当時,誰が,150年後の今日,アジアの国々を代表する諸大学が歴史の荒波を乗り越えてここに集うことを想像できたでしょうか。そして誰が,今から150年先の大学の未来を確実に語ることができるでしょうか。しかし,私たちは,学問の力によって未来のアジア世界と大学の姿を,協調と連帯の願いを込めて描かなければなりません」。皆さんとともにこの思いを共有し,5月にはささやかながら厳粛な祝典が挙行できることを期待しております。
宝町地区では,長年の願いであり,金沢大学総合移転・再開発の集大成となる第2期総合研究棟の新築が予定されております。また,学生・留学生宿舎を角間キャンパスにつくります。学生宿舎のような造営事業ができることは,大学が自主自律に向けて一歩踏み出した象徴的な出来事であります。
金沢大学は教育重視の研究大学であることを目指しています。これに沿って,昨年は3研究域にそれぞれ2センターを設置しました。これらのセンターを後押しするかのように,昨年暮れには,研究を側面支援するシステムとして,University Research Administrator育成事業に本学の申請が採択されました。以上のように,大学の歴史を画す事業に着手でき,これらは次なる150年に向けての濫觴となることを願っています。
学長任期6年を,事業の区切りとして2年ずつに分けると,今年は,最後の2年が始まる年です。これまでの4年間で行ってきた施策,展開した事業等を集大成し次の世代へと渡すべきものを準備する期間と認識しています。大学の存在理由は何よりも「社会のために」あるということです。これまで以上に研究拠点形成を目指し,グローバル化の波を乗り切ることが明日につながるものと信じています。その基礎を固めるべく,最後の2年間,全力をふるう覚悟でおります。これまでの4年間で,種々の事業が軌道に乗り始めましたのも,職員の皆さんのたゆまない努力と積極的な大学運営への参加の賜物と感謝しております。加えて,明日に向かって共に歩み,法人として自主・自律の運営に参画して下さるよう切に期待し,またお願いしまして,年頭の挨拶とします。
平成24年1月4日
金沢大学長 中村 信一