2013年1月4日 大会議室
新年おめでとうございます。
「何となく,今年は良いことあるごとし。元日の朝,晴れて風無し」。 これは石川啄木が詠ったもので,「悲しき玩具」に所収されている歌です。啄木らしくストレートに心に届く詠みぶりで,風もなく晴れ渡り,穏やかな元日を迎え,今年こそ良いことがありそうだと,明日へ向かった気持ちを歌ったものです。金沢の元旦の空は雲がかかっていたものの,薄っすらとした雪化粧の中,穏やかに明けました。早朝の鮮烈な冷気を胸いっぱい吸い,今年は良い風が吹くように感じました。皆さまにも大学にも佳い年であるよう,と願ったところです。
昨年は,本学にとり150年と言う節目の記念すべき年でした。5月30日には創基150年を祝う式典が滞りなく挙行できました。金沢大学創基150年史が刊行され,秋には記念ワイン「燦燈(さんとう)」が発売されました。5月30日,私は,国際化に対応した学生支援を目的として,金沢大学基金「創基150年記念留学生支援キャンペーン寄附募集」の開始を宣言しました。また,国際化の一環として,学生留学生宿舎「先魁(さきがけ)」を建てました。これらの事業は,次の150年に向けて踏み出した1歩の象徴であります。このように多くの事業が滞りなく進みましたことは,皆さんがそれぞれの場所で最善を尽くされた賜物と感謝しております。本年は,創基150年記念事業の締めくくりとして,キャンパス内に「学問の木」,「大器晩成の木」とも称される「楷の木」を植樹する予定です。
さて,暮れの12月16日には衆議院選挙が行われ,来年度の予算は組み替えの最中にあり,国立大学の運営費交付金に関することも,未だ明確ではありませんが,運営費交付金の更なる縮減が予想され,25年度も法人運営のかじ取りは相当に慎重にしなければなりません。
このように本年も不確定要素を多分に含む年ではありますが,金沢大学の今後を方向づける重要な年でもあります。まず,今年は大学の機能に基づく選別が進むと予想されます。本学は研究大学として自他ともに認める大学への成長を大学運営の基本としており,なんとしても研究大学としての機能を果たせる環境を整えなければなりません。第2に,附属病院は是非とも臨床研究中核病院としての指定を受けなければなりません。北陸の医療の最後の砦としての機能をよりよく果たすべく,また我が国の医療の質をさらに発展させる上で欠かせない指定です。第3に昨年暮れから,教育研究分野におけるミッションの再定義が進んでおります。今年3月までに教員養成分野,工学分野,医学分野のミッションが再定義されます。この他の分野のミッションは25年度中ごろまでに再定義されるでしょう。
再定義されたミッションは,3年後の第3期中期目標・中期計画立案の中核となります。第3期の最終年度は今から9年後です。大学はミッションに沿う目標を立て,9年後に向け今から確かな運営をしなければなりません。大学はなによりもそこに働く人により支えられています。皆さんには,是非,金沢大学の改革に自律的に参画して下さい。10年後を見据えて参画して下さい。自らの職責に誇りを持ち,自らの責務を自覚し,自律的に考え,判断し,行動できる能力が今ほど求められている時はありません。皆さん一人ひとりの真摯な努力を切に願っております。
本年の大きな事業について少しだけ申し上げます。4月には,博士課程リーディングプログラム「文化資源マネージャー養成プログラム」の第一期の学生を受け入れ,プログラムは本格的に始動します。この事業は大学院博士課程で傑出した人材,グローバルに通用する人材を養成するプログラムですが,その影響は教育体制だけにとどまらず,本学の研究大学としての将来に及びます。本プログラムを嚆矢とし,後に続く第2,第3のプログラムが採択されるように努力します。
先端科学・イノベーション推進機構は,昨年4月に設置され,設置初年度から,大型の各種競争的資金獲得に大きな力を発揮してきました。今年は,研究大学強化促進費,世界展開力強化事業など,本学が世界に開かれた研究大学として戦っていくために欠くわけにはいかない事業が公募される予定です。先端科学・イノベーション推進機構を核として,これらの事業の採択を目指すと同時に,国際化に向けて学生交流を促進する努力を続けなければなりません。
施設整備では,3月に附属図書館医学系分館が,11月には医学系総合研究棟が完成します。これをもって,今から29年前,1984年に始まる金沢大学総合移転・再開発の当初計画は完了します。しかしながら,これで完了と,現状に安住する訳にはいきません。次の150年に向かって,大学のインフラ整備に一層の努力が必要であります。
私は学長就任以来,5つの柱からなるビジョン,「我が国ベスト10大学を目指すこと」,「世界的な教育研究の拠点となること」,「次世代の優秀な人材を育成すること」,「リージョナルセンターとして機能すること」,そして「法人としての自主・自律的な運営を行うこと」を掲げ,「強いところを更に強くする」戦略の下,「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」「東アジアの知の拠点」を目指し,努力を積み重ねて参りました。一昨年に続き昨年も,その成果が少しずつではありますが,目に見える形で出てきました。
本学の現在の勢いをさらに加速すべく,150年の歴史と伝統を胸に刻み,我が国の高等教育と学術研究の発展に大きく寄与してきた金沢大学の一員であることを誇りとし,あまた横たわる諸課題に,本年も果敢に挑戦して下さるものと,大いに期待しております。
学長任期も最後の1年となります。これまで傾注してきた施策,展開した事業等を次の世代へと渡す準備をする年と認識しています。大学の存在理由は何よりも「社会のために」あるということです。明日に向かって共に歩み,法人としての自主・自律の運営に参画して下さるよう切に期待し,またお願い申しあげ,年頭の挨拶といたします。
平成25年1月4日
金沢大学長 中村 信一