精神疾患における脳活動の定常刺激反応の変質に興奮性/抑制性バランスとシナプスのロングテール性の関与が判明

掲載日:2022-2-2
研究

金沢大学子どものこころの発達研究センター(協力研究員)/日本学術振興会の長谷川千秋助教,金沢大学子どものこころの発達研究センター(協力研究員)/ 福井大学医学部精神医学(客員准教授)/魚津神経サナトリウム(副院長)高橋哲也,金沢大学子どものこころの発達研究センターの池田尊司,金沢大学 医薬保健研究域医学 精神行動科学の菊知充教授,千葉工業大学,東邦大学との共同研究グループは,スパイキングニューラルネットワーク(※1)とよばれる神経活動とネットワーク構造の詳細なモデルに基づいた数理シミュレーション研究によって,脳神経活動の同期現象である定常刺激反応が精神疾患によって変質してしまう要因として,興奮性/抑制性バランスと,シナプスのロングテール性(※2)が関与することを発見しました。

これまでは,脳波や脳磁図などのニューロイメージング法を用いてニューロン集団の活動レベル (マクロレベル) を捉える研究が中心でした。それに対して,今回の私たちのシミュレーションモデル研究では,ニューロン・シナプスレベル (ミクロレベル) の特性変質がどのようにマクロレベルの応答特性に影響を与えるかを明らかにしました。

今後,このようなアプローチによる研究成果がさらに蓄積されれば,脳波検査のような広く普及したニューロイメージング機器を用いて,マクロレベルな活動から詳細なミクロレベルでの特性変質の検出を可能にする新しい精神疾患のスクリーニングが実現することが期待されます。

本研究成果は,2021年12月3日に国際学術雑誌『Cognitive Neurodynamics』に掲載されました。

 

 

図1.本研究で構築したスパイキングニューラルネットワークの概略と刺激入力法 

 

 

図2. 定常刺激応答の興奮性/抑制性比(E/I比)への依存性

Gamma波帯域付近の周波数を持った入力刺激に対して,興奮性の比率が増加することで,応答性が低下する様子が確認できる。

 

 

【用語解説】
※1 スパイキングニューラルネットワーク
脳・神経系の神経細胞 (ニューロン) は,急峻な膜電位の上昇である発火によって情報処理の伝達を行っている。スパイキングニューラルネットワークはこの発火のダイナミクスをモデル化し,実際のニューロンの生理学的特性に近い挙動を示すニューロンモデル。

※2 ロングテール性
確率分布の裾が,指数関数的な減衰をせずに,数オーダーに亘って穏やかに減衰する確率分布の性質。対数正規分布やガンマ分布などの確率分布がこの性質を持つ。

 

 

 

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Cognitive Neurodynamics

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