金沢大学子どものこころの発達研究センターの廣澤徹准教授,大学院医薬保健学総合研究科医学専攻の相馬大輝さんらの共同研究グループは,産学官連携のプロジェクトで開発した「幼児用脳磁計」(図1)を活用し,5歳から8歳の自閉スペクトラム症の子どもは,そうでない子どもと比較し,神経ネットワークの効率性に関する指標が低下しており,それは社会性の障害と相関があるという研究結果を報告しました。
これまでも自閉スペクトラム症では脳ネットワークの効率性に関する指標が低下する可能性が示唆されていましたが,幼児期を対象とした研究は少なく,また検査環境もまちまちでした。そこで我々は,5歳から8歳の自閉スペクトラム症の子ども21名と定型的な発達の子ども25名を対象に,幼児用脳磁計を使って脳のネットワークを可視化しその特徴をグラフ理論を使って解析しました。結果,定型的な発達の子どもと比較し自閉スペクトラム症の子どもでスモールワールド性(※3)の低下がみられ,その低下は社会性の低下と相関があることが示されました(図1)。
この研究結果は,今後自閉スペクトラム症児の評価や診断の指標への応用やより具体的な疾患への理解につながることが期待できます。
本研究成果は,2021年11月19日にスイスの科学誌『Frontiers in Psychiatry』のオンライン版に掲載されました。
図1. 研究デザインおよび結果
【用語解説】
※1 自閉スペクトラム症
1)対人相互作用の障害,2)言語的コミュニケーションの障害,3)常同的・反復的行動様式などを示し,その病像は種類や重症度の点で非常に多彩である。その原因は感情や認知といった部分に関与する脳の異常だと考えられている。自閉症的な特性は,重度の知的障害を伴った自閉症から,知的機能の高い自閉症までスペクトラムを形成するという考えに基づく。
※2 グラフ理論
ネットワークを頂点と,二つの頂点の間の結びつきを表す辺の集合として表現し,その形態学的特徴を数値化することでネットワークそのものの特徴を比較検討する方法論。言語学や社会科学などにも応用されている
※3 スモールワールド性
ネットワークの特徴として,複数の頂点同士が密に連結しているいくつかのクラスター化された部分とそれらを連結する長い結合とが組み合わさって構成され,明確なクラスターを形成(脳で言えば機能分化)すると同時に任意の2頂点間をつなぐ経路が短くなる(脳で言えば素早い情報伝達)ような構造を有していること,またはその性向を指す。
研究者情報:廣澤 徹