金沢大学ナノマテリアル研究所・ナノ生命科学研究所の淺川雅准教授, 北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点の猪熊泰英准教授らの研究グループは,単分散ポリケトンを用いて小分子化合物と高分子化合物の境界にあたる分子長を結晶構造の面から決定することに成功しました。
高分子化合物はプラスチックなどに使われる有機化合物で毎年大量に生産されています。一般に高分子化合物は,同じ繰り返し単位を持ちながらも長さの異なる有機化合物の集合体として生産・利用されています。一方,同じ有機物でも,分子量が小さい小分子化合物は長さや分子量が決まった純粋な化合物として薬剤など全く違った用途に使われることが多いです。一つの小分子を繰り返し単位として数多く連結すれば高分子化合物が得られますが,化合物の性質として高分子と小分子の明確な境界が何個小分子を連結した所で現れるのかは多くの高分子化合物において未知です。
今回,淺川准教授らはアセチルアセトン誘導体を繰り返し単位に持つポリケトン化合物を用いて,結晶構造の観点から高分子と小分子の境界にあたる長さ(臨界長)を決定することに成功しました。一般に,小分子では僅かな長さの違いであっても異なる結晶構造を取ることが知られていますが,十分に長い高分子化合物では長さに依存せず共通の結晶構造が現れてきます。淺川准教授らは,精密な有機合成法を用いて繰り返し単位が2~20個までの異なる長さを持つポリケトンを純粋な化合物として作り出し,それぞれの結晶構造を解析しました。そして,繰り返し単位5個という非常に短い領域から長さに依存しない螺旋型の結晶構造が現れることを突き止めました。この臨界長以上の長さをもつ化合物では,異なる長さが混ざっていても同様な結晶構造,すなわち高分子的な結晶構造をとることが分かりました。
高分子化合物における臨界長は化合物の性質を理解する上で非常に重要です。今回のポリケトンでは,繰り返し単位が2~4個までは融点が不規則な変化をするのに対し,5個以上では繰り返し単位の個数に応じて単調に融点が上昇するという特徴がありました。ここに臨界長の情報を持ち込むことで,不規則な変化が小分子的な結晶構造の違いに由来することが明確に説明されました。
なお,本研究成果は,2022年7月21日(木)公開の『Chemical Science誌』にオンライン掲載されました。また,本論文はOutside front coverに採択されています。
【参考図】本研究で決定した結晶構造が変化する臨界長N
図1.アセチルアセトン(単量体)を出発原料とする単分散ポリケトン(2~20量体)の合成。高分子結晶性を示す臨界長である5量体の合成経路。
図2.小分子結晶として特有な結晶構造を示す単分散ポリケトンの2~4量体及び高分子結晶として類似な結晶構造を示す5,6量体。
図3.単分散ポリケトンの臨界長である5量体以上では分子鎖長の伸長に応じて融点が単調に増加。
研究者情報:淺川 雅