能登半島では2020年12月頃から地震活動が活発化しており,地殻の隆起も観測されています。この地震・地殻変動の要因は,地下深部から上昇してきた流体が地下十数kmに溜まったためだと考えられていますが,地殻深部の流体分布や地震発生との関係をより詳細に把握するためには,これまで実施してきた陸上の調査に加えて海域での調査が必要となります。そこで兵庫県立大学・海洋研究開発機構・金沢大学(理工研究域地球社会基盤学系 平松 良浩教授)・京都大学の4研究機関は合同で,2022年9月13日に,能登半島沖に海底観測装置の設置を行い,海底観測を開始いたします(~10月25日)。海底装置を用いて自然の電磁波を測定することで(掘削を行わずに)地震発生域やその深部の流体分布を可視化でき,地震発生と流体の関係が明らかになると期待されます。海底観測は約1ヶ月半にわたり継続され,その後に地下構造解析を実施します。研究成果は令和4年度中に報告予定であり,今後の防災・減災の基礎情報として利用される予定です。
・能登半島では地震活動の活発化や地殻の隆起が観測されており,地下深部から上昇してきた流体が要因であると考えられている。
・しかし,地震の震源は海岸沿いに位置しているために,海域の調査を実施することで,地殻深部の流体の分布と地震発生の関係を
より詳細に把握することができる。
・そこで,能登半島の沖合において海底観測を実施する。自然の電磁波を測定することで,地震発生域やその深部の流体の分布を可
視化でき,地震発生と流体の関係が明らかになると期待される。
・海底装置の設置完了日:2022年9月13日(火)
石川県珠洲市蛸島漁港(石川県漁業協同組合すず支所)から出港し,装置を設置。
海底装置の回収予定日:2022年10月25日(火)
地震の発生(特に群発地震(※1))には地殻深部から上昇してきた地殻流体(※2)の関与が以前から指摘されています。高圧の流体が岩盤を押し広げるために,地震が発生するという説です。しかし,地殻深部の流体が地震発生に寄与したと考えられる明確な例は,国内外でこれまでに確認されてはいません。例えば,1965年に始まった松代群発地震(長野県)では,地表の地割れ群から大量の湧水が観測されたため,地震発生に地殻深部流体が関わったと考えられていますが,両者を関連付ける直接的な証拠は見つかってはいません。
能登半島先端部(石川県珠洲市周辺)では,2020年12月頃から地震活動が活発化しており,震度1以上を記録した地震発生回数は,2022年9月5日までに200回以上に至っています。これまでの最大規模の地震は,2022年6月19日のマグニチュード5.4(深さ13km,珠洲市で震度6弱)の地震です。さらに地殻変動連続観測によって,2020年11月から現在までに珠洲市の観測点は4cm程度隆起したことも明らかとなっています。活火山のない能登半島においてこのような地殻の隆起を引き起こす要因は,地下深部からの流体の上昇であると推測されます。また能登半島での地震活動もこの流体に関係があると考えられます(図1)。しかしながら,1) どのような位置・深さに,2) どの程度の量の地殻深部流体が,3) どの程度の高圧力で分布しているのかは明らかではありません。京都大学防災研究所・兵庫県立大学・金沢大学の共同研究グループは2021年度に,陸上の32箇所において電磁探査(後述)を実施しており,震源域の下部において流体の「塊」に相当すると思われる地下構造を発見しています。しかし,地震の震源は海岸沿いに分布しているため,陸上の電磁探査に加えて,海域で調査を行うことにより,地殻深部の流体の分布をより正確に把握することが期待されます。
そこで新たに,先の研究グループに海洋研究開発機構を加えた4研究機関は共同で,海底において電磁探査を実施し,震源域やその下方の流体分布の可視化を実施することとしました。
図1:本研究で明らかにしようとする,地殻深部の流体分布と,地震発生域の関係性。地下十数kmに高圧の流体の「塊」が存在し,その上部で地震が発生しているという仮説を,陸上および海底観測から明らかにします。なお上図は,読売新聞記事(2022年6月19日)に掲載された図(京都大学防災研究所 西村卓也准教授の分析結果に基づく)を参考としています。
写真1 海底電磁気観測装置
写真2 珠洲市沖での海底電磁観測装置の投入
本研究は,令和4年度 科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)特別研究促進費「能登半島北東部において継続する地震活動に関する総合調査」(研究代表者:金沢大学地球社会基盤学系 平松良浩教授)(課題番号2 2 K 1 9 9 4 9)の支援を受けて実施されます。また,実施にあたっては,石川県・珠洲市・石川県漁業協同組合などにご協力をいただいています。
【用語解説】
※1 群発地震
地層活動のうちで前震・本震・余震の区別がはっきりせず,ある地域に集中的に多数発生するような地震群。通常の地震活動では,本震・余震あるいは前震・本震・余震といった一連の地震活動が認められ,余震の回数は時間とともにある程度規則的に減少する。群発地震活動はこのような一連の活動を示さず,消長を繰り返しつつ一定期間継続する。(※以上,地震調査研究推進本部による解説文を一部改変)
※2 地殻流体
地球表面を構成する地殻(平均厚さ30km)に含まれる流体(液体と気体が混ざったもの)。地下水は,地殻流体の一つである。地殻の深い部分に分布している流体は,地殻深部流体と呼ばれている。
・ 研究者情報:平松 良浩