生体分子の動的な動きを直接観察できる高速AFMは,動的構造生物学への新たな道を切り開きました。過去15年間に成功した膨大な数のアプリケーションは,例えば,分子モーターがどのように特定の機能を実行するかを可視化するなど,ナノスケールでの重要な生物学的プロセスに対するユニークな洞察を提供しています。
AFMイメージングの本質的な限界は,表面トポグラフィーしか取得できないことと,AFM探針が大きいためナノメートルスケール以下の詳細な解像が難しいことです。高速AFMによる観察結果の解釈と理解を容易にするために,実験後の解析と計算手法がますます重要な役割を果たすようになっています。
Current Opinion in Structural Biology誌に掲載された総説では,金沢大学ナノ生命科学研究所のHolger Flechsig特任助教(数理計算科学)と安藤敏夫特任教授(金沢大学特別功績教授・ナノ計測学)が,この話題の学際的研究分野の発展について,計算モデリングとシミュレーションにより,トポグラフィー分解能に制限のあるAFM画像から原子レベルの分解能で3次元コンフォメーションを再構築することが可能になっていること,さらに,定量的な解析手法により,例えばトポグラフィー画像から生体分子の形状変化の自動認識や,分子表面のアミノ酸残基の同定などの特徴付与が可能になると概観しています。
開発された計算手法は,オープンアクセスソフトウェアに実装されていることが多く,高速AFMでの試料観察を補うものとして,Bio-AFMコミュニティで幅広く,便利に利用されるようになっています。この点で,2020年に金沢大学で開始されたBioAFMviewerソフトウェアプロジェクト(※)は大きな注目を集め,多くの共同プロジェクトで重要な役割を果たしています。
高速AFMと計算機モデリングを組み合わせることで,タンパク質の機能を原子レベルで詳細に理解することができるようになります。将来的には,高速AFMトポグラフィー動画から原子レベルの3D分子動画を再構成する分子モデリングの応用も視野に入れています。
※関連リンク先:BioAFMviewerソフトウェアプロジェクト
ジャーナル名:Current Opinion in Structural Biology
研究者情報:Holger Flechsig