トンガ沖海底火山噴火がもたらした電離圏の穴 ~最先端の観測から見えた地圏と宇宙圏のつながり~

掲載日:2023-6-9
研究

 

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学宇宙地球環境研究所の新堀淳樹特任助教,金沢大学理工研究域電子情報通信学系/先端宇宙理工学研究センターの松田昇也准教授,同大学学術メディア創成センター/先端宇宙理工研究センターの笠原禎也教授らの研究グループは,全球測位衛星システム(GNSS) (※1),気象衛星ひまわり,ジオスペース (※2) 探査衛星「あらせ」,電離圏 (※3) 観測機器などのデータを解析し,南太平洋トンガ沖海底火山の大規模噴火に伴う同心円状の気圧波が引き起こした電離圏電子密度の不規則構造の観測に成功しました。

 観測データにおいて,通常よりも 1~2 桁程度,電子密度が急減する多数の電離圏の穴が日本上空で観測され,探査衛星「あらせ」の観測によってこの電離圏の穴は,2,000kmの宇宙空間まで伸びていることが分かりました。また,電離圏の穴の形成は,電離圏の高度上昇が原因であったことと,その高度上昇は火山噴火による気圧波の到来よりも約 1-2 時間も前に起こっていたことが分かりました。本研究は,このような火山噴火に伴って発生した大気変動による電離圏の穴の生成機構を明らかにしました。また,電離圏の穴は電波障害の原因であり,宇宙天気の観点で予報が必要な項目です。電波障害を起こす宇宙天気現象は,太陽フレアなどの太陽活動に起因することが広く知られていますが,本研究結果は,宇宙天気現象が大規模噴火等の地表の現象にも起因することを明示する重要な事例です。

 本研究成果は,2023 年5月22日午後 6 時(日本時間)付ネイチャー・リサーチ社刊行の総合国際学術雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

 

図:トンガ火山噴火後に観測されたプラズマバブルの発生メカニズム
      左の縦軸は高度を表し,値と目盛は各領域の境界の大まかな高度を示す。

 

                                                                                 

【用語解説】

※1:全球測位衛星システム(GNSS)
 アメリカの GPS,日本の準天頂衛星(QZSS),ロシアの GLONASS,欧州連合のGalileo 等の衛星から発せられる信号を用いた位置測定・航法・時刻配信を行う衛星測位システムの総称。その中で,よく認知されている全地球測位衛星システム(GPS)は,上空約 2 万 km を周回する GPS 衛星(6 軌道面に30個配置),GPS 衛星の追跡と管制を行う管制局,測位を行うための利用者の受信機で構成される。

※2:ジオスペース
 人類の活動域となりつつある,地球周辺の宇宙空間。

※3:電離圏
 地球を取り巻く超高層大気中の分子や原子が,紫外線やエックス線などにより電離した,高度約 60~1,000kmの領域。この領域は電波を吸収,屈折,反射する性質を持ち,これによって短波帯などの電波伝搬に影響を及ぼす。

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:Scientific Reports

研究者情報:松田 昇也

      笠原 禎也

 

 

 

 

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