金沢大学医薬保健研究域医学系神経解剖学の服部剛志准教授,堀修教授,子どものこころの発達研究センターのスタニスラフ シェレパノフ博士,東田陽博金沢大学名誉教授らの共同研究グループは,他人を記憶する脳がどのように発達するのかを明らかにしました。
ヒトを含めた社会を形成する動物は,集団内の他個体を記憶(社会性記憶)し,それぞれの相手に対して適切に振る舞うことで適応的な社会を形成しています。自閉スペクトラム症などの脳の発達障害においては,この社会性記憶の神経回路に異常があると考えられています。最近,この社会性記憶を担う脳の場所や神経回路の種類など,その神経メカニズムが明らかになりつつあります。しかしながら,そのような社会性記憶を担う神経回路が脳の発達の過程でどのように作られるのかについての詳細は,分かっていませんでした。
今回,本研究グループは幼少期のグリア細胞(※1)の一種が他人を記憶する脳の形成に重要であることを明らかにしました。本研究をさらに発展させることにより,社会性を担う脳の仕組みが明らかになるだけでなく,自閉スペクトラム症(※2)などの社会性障害が見られる脳神経疾患の原因究明につながることが期待されます。
本研究成果は,2023 年 6 月 26 日 19 時(日本時間)に国際学術誌『The EMBO Journal』のオンライン版に掲載されました。
図:本研究の内容 アストロサイトが社会性記憶の神経回路形成に重要な役割を果たします。
①幼少期の脳において CD38 はアストロサイトに多く存在し,②CD38 はアストロサイトからの SPARCL1 の放出を促進します。③SPARCL1 により神経細胞同士の結合(シナプス)の形成が促進され,その結果,④社会性記憶の神経回路が形成され,⑤大人のマウスは他の個体を記憶することができるようになります。
【用語解説】
※1:グリア細胞
脳に存在する細胞で,3 種類(アストロサイト,ミクログリア,オリゴデンドロサイト)に分類される。
※2:自閉スペクトラム症
自閉症を含む,コミュニケーションの障害,限定された興味などを特徴とする脳の発達障害の一つ。多くの遺伝的要因が関与しており,その数は人口の1%以上に及ぶと言われている。
ジャーナル名:The EMBO Journal
研究者情報:服部 剛志