多価陽イオンによってイオン電流が調節される仕組みを解明 ~思考や記憶等の元になる神経伝達の調節機構についての知見~

掲載日:2023-8-25
研究

 金沢大学ナノ生命科学研究所の炭竈 享司 特任助教(JSTさきがけ研究員),国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学細胞生理学研究センター・大学院創薬科学研究科・糖鎖生命コア研究所の大嶋 篤典 教授,織田 祥徳 博士後期課程学生らの研究グループは,和歌山県立医科大学薬学部の入江 克雅 准教授(名古屋大学細胞生理学研究センター 客員准教授),東京医科歯科大学との共同研究で,神経情報伝達や記憶形成などで重要な役割を担う二価陽イオンによるイオンチャネルの電流調節の仕組みを,遺伝子変異による機能改変・結晶構造解析・分子動力学シミュレーション(※ 1)を用いることで明らかにしました。

 神経活動は複雑な調節を受けており,その調節の微妙な変化により様々な障害が生じます。イオンチャネルは,神経活動の元となるイオン電流を発生させる分子であり,マグネシウムイオンによるイオンチャネルの活動の調節を標的とした化合物は,抗てんかん薬や抗アルツハイマー病薬となります。しかしながら,このイオン電流の調節の詳細は不明でした。本研究では,イオンチャネルのイオンの通り道の親水性を高めると,二価の陽イオンが詰まりやすくなり,その結果イオン電流が生じにくくなるということを明らかにしました。

 本研究成果は,神経伝達の電気信号の調節機構についての知見を与えるものです。また,イオンチャネルへの機能創出や多価イオンの分子動力学シミュレーションでの再現などについても新たな知見を提供し,これらの結果をもとにした,新たな薬剤の開発の基礎となることも期待されます。

 こ の 研 究 成 果 は ,2023 年 7 月 15 日 付 に イ ギ リ ス 科 学 誌 『Nature Communications』に掲載されました。

 

 

【研究成果のポイント】

 ・神経活動の調節に重要な電流調節の仕組みに関する研究

 ・親水性の増加によるカルシウムイオンによる電流阻害が起きることの発見

 ・多価イオンの挙動をシミュレーションで正確に再現

 

 

    © 2023 Irie, et al.

     

    図:今回の研究で明らかになった多価陽イオンによる電流阻害の分子モデル
     カルシウムイオンのような多価陽イオンがないときはイオンの通り道に強くとどまるイオンは存在せず,どちらのイオンチャネルでもナトリウムイオンの通り抜けが起き,イオン電流が発生する。改変前のチャネルでは,イオンポア内の親水性が低いため,カルシウムイオンがイオンポア内に強くとどまることができないため,カルシウムイオンによる電流の減少は起きない。一方で,イオンポア内の親水性が増加した改変チャネルでは,増加した親水性によってカルシウムイオンが強くイオンポア内にとどまるため,ナトリウムイオンが通れなくなりイオン電流が減少する。

     

     

     

    【用語解説】

    ※1 分子動力学シミュレーション:
     分子の動的な構造変化を計算機内で再現し追跡する手法。分子力場を用いて,目的分子を含む系内のすべての原子に働く力を求め,これを用いて原子の軌跡を決定する。

     

     

     

    プレスリリースはこちら

    ジャーナル名:Nature Communications

    研究者情報:炭竈 享司

     

     

     

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