金沢大学ナノ生命科学研究所の紺野宏記准教授,中山隆宏准教授,京都府立大学大学院生命環境科学研究科 の平野朋子准教授,佐藤雅彦教授らの共同研究グループは,モデル植物シロイヌナズナを用いて、根毛の側面部分に二次細胞壁成分を輸送し、根毛側面を硬くすることで、根毛が細長く真っ直ぐ伸びながら、その形を維持する仕組みを解明しました。この研究成果は,自然科学研究機構基礎生物学研究所細胞動態研究部門の海老根 一生助教,上田貴志教授,熊本大学大学院先端科学研究部の檜垣匠教授,九州大学大学院医学研究院系統解剖学分野の今村寿子助教との共同研究によるものです。
植物の根の表皮細胞は、「根毛」を形成する細胞(根毛細胞)と形成しない細胞(非根毛細胞)が交互に配列しています。「根毛」は、根毛細胞の一部が突き出て管状に伸びた構造で、根の表面積を大きくして土壌中の水や養分を吸収する役割があります。
根毛細胞が均等に伸長した場合、風船状に膨らみますが(図1)、実際の根毛は、先端部分が伸びると同時に根毛の側面部分の拡大を抑制するために、細長い管状構造を形成しています。また、土の抵抗に逆らって破けず細長く伸びるために、側面を非常に硬くしています。このような硬い根毛側面には、二次細胞壁が形成されていますが、二次細胞壁成分を輸送する分子機構については、全く不明でした。
今回、本共同研究グループは、モデル植物シロイヌナズナを用いて、根毛の「先端成長のための物質輸送ルート」と「側面の硬化と成長抑制のための物質輸送ルート」が存在することを発見しました。さらに、これらのルートの担い手は、前者が、SYP132,VAMP721 の複合体と、SYP123,VAMP721 の複合体で、後者が、SYP123 と VAMP727 の複合体であることも突き止めました(図2)。
今後、この仕組みを活用して、側面強度を増強した長い根毛を持つ植物体を作出するなど、栄養源が乏しい土壌中から効率よく栄養を吸収できる植物体を開発できる可能性があります。
本研究成果は,2023 年 9 月 15 日(米国東部時間)に国際学術誌『The Plant Cell』のオンライン版に掲載されました。
図1:根毛は、内部からの膨圧のはたらきなどにより伸長することから、根毛の細胞壁の硬さが一様な場合、風船状に膨らんでしまい、細長い構造を維持できない。根毛は、側面に二次細胞壁成分が輸送されることで、硬く細長い真っ直ぐな構造が作られる。
図2:研究成果の概略図
伸長中の根毛では、SYP123 と VAMP721 の複合体や、SYP132 と VAMP721 の複合体が働く「先端成長のための物質輸送ルート」と SYP123 と VAMP727 の複合体が働く「側面の硬化と成長抑制のための物質輸送ルート」が存在する。
ジャーナル名:The Plant Cell
研究者情報:紺野 宏記